聞き慣れたメロディーとともに、背番号26は京セラドーム大阪の一塁側ベンチを飛び出してきた。

「ピッチャー、能見」

今季からオリックスに新加入した能見篤史投手兼任コーチ(41)は3月3日のロッテ戦で“本拠地デビュー”を果たした。「お客さんが入っていたので、気持ちの高ぶりがあった。力みもありましたよ。新しい環境で、ファンの方の前で投げるのは初めてだったので、気持ちを抑えながら」。ファンに見守られてのマウンドは阪神在籍時の昨年11月11日DeNA戦(甲子園)以来だった。

14年から使用する登場曲、GReeeeNの「刹那」がファンの胸を躍らせた。メロディーが流れると拍手喝采。「オリジナルで作ってもらったものなので」とオリックスでも継続して使用する。

3日の試合は2番手で登板し、2回を1安打無失点に抑えた。ベンチでハイタッチを交わした後は「またブルペンに戻るだけ。僕はアイシングしないタイプなので」と涼しい表情。コーチとして基本的にブルペンを担当する予定で、電話番もこなす。「どっちも肩書があるので。僕が電話を取って『次、行くよ!』と伝えます」と笑った。

今季は42歳シーズン。投球間隔を変えたり、けん制を挟んだりと熟練の投球術で相手を翻弄(ほんろう)する。「ボールが速いわけではないので、考えながら。見せるボールもあるので。意識的にしっかり投げられるかどうか」。体の状態を問うと「この歳になると、何が良いのかわからなくなる。なかなか難しいところで…」と語り、マスク越しにも笑顔が見える。

普段はクールな男がオリックス加入後、笑みを絶やさない。コーチ兼任であり「しっかりやらないと、アドバイスだとか会話ができない。そこはしっかりと結果を残しながら、何か感じていきたい。準備と考え方。何かプラスになるように、良い方向に行ければ」と言葉に説得力がある。

宮崎春季キャンプでは20代前半の若手投手とタイム走で競争。人けのないブルペンで「おかわり投球」をしたことも多々あった。コーチ会議にも出席し、キャンプ地を離れる頃には日が暮れていることはざらだった。新戦力は結果を残している。実戦3試合で計6イニングを無失点。試合中は表情を変えず、ひょうひょうと投げる。ただ、マウンドを降りると違う。「基本、緊張は毎回しますよ。どんな場面であろうと」とよく笑う。

16年間在籍したセ・リーグからパ・リーグへの移籍。「肌で感じたい。しっかり振ってくるというのはセ・リーグとは違うかなと思います」。そんな姿を中嶋監督はよく見ている。「パ・リーグを見ながら投げている。打者を見た投球ができている」。そう評価した上で起用ポジションについては「決まってないよ」という。現状は両にらみの調整を能見に求めており、豊富な経験、対応力がある能見はそれをまた事もなげにこなしている。

「新しい環境でやらせてもらってますし、オリックスは、ここ2年最下位という結果もある。チームの底上げをうまくしながら。やるからには『てっぺん』を目指さないと。そこに向けて全員で頑張っていけたら」

色が変わっても、スタイルは不変。紺色ユニホームを身にまとった背番号26が、まっさらなマウンドに向かう。【オリックス担当 真柴健】