鋭い眼光で、捕手のサインをにらむ。ズバンと投げ込むと、オリックス富山凌雅投手(23)は、雄たけびを上げ、天を仰いだ。マウンドを降りる瞬間、左手でバシンとグラブをたたき、両手をスーッと上げる。

「最初は無意識でやってしまったんです。(18日の)ロッテ戦で3者連続三振を取ったときに、めちゃくちゃ興奮してしまって…」

初披露からすでに3度公開し、板についてきた“歓喜の舞”。「あれ、もう名前があるらしいんです。ナハナハポーズ? と言うみたいです」。

タレントのせんだみつお(73)が、両手を顔の横に上げ、前後に動かしながら「ナハナハ!」と笑わせるギャグがある。23歳の富山は世代が違い“本家”は知らない。「そうなんですよ。自然とやってしまって(笑い)。(伏見)寅威さんとか、平野佳寿さんが『なんだよ、あれ!』って。ナハナハポーズと名前を教えてくれました」と無邪気に笑う。

「ブルペン(仲間)のみんなからもツッコミが…。この流れに乗って広めていこうかなと」。ナハナハを“再ブレーク”させる意気込みだ。しびれる場面を越えて、ナハナハポーズ。ファンも同時に「ナハナハ」してくれるかもしれない。

富山は今季、勝ち継投に食い込んでいる。ピンチの展開や左の強打者を迎えるタイミングでブルペンを飛び出すことが目立つ。「遊び心というかね。(ゾーンに)入り過ぎてもダメなんで、余裕を持って。僕、ブルペンから、結構ふざけてるんです。能見さんにも『お前はふざけて行った方がいいから、もっとふざけろ!』って言われたぐらい(笑い)。(待機中は)はしゃいだり、明るくですね」。スイッチを入れるのは、球審からボールを受け取ったタイミングだ。

もちろん、遊んでいるわけではない。救援陣で「ブルペンでは(相手の攻撃は)誰から始まるんだろうと見てます。西武戦なら森さん、中村さん…。あ、もう、やばいやーん! とか思いますよ。いざ行くとなったら、それを忘れて行きます」と笑う。

今季のテーマは「先頭打者を抑えること」に重点を置き、「まずは先頭バッターを、どうやってアウトに取るか」を考える。

開幕前のある日、“魔法の言葉”をもらった。「娘が犯人に捕まっている! とイメージしたら? って。そうすれば、先頭からアウトを取れると。水本ヘッドから聞いたんです。(広島の)黒田さんが、実践されていたみたいで」。その日から、愛娘の虹花(にな)ちゃんを救い出す日々がスタートした。「大事なのは、娘を助けるために本気でどうするかを考えること」。長年、カープに在籍したヘッドコーチの助言を素直に受け入れた。「実践してみたら、意外とうまくいったんです。先頭打者を抑えないと、そのイニングの時間を支配できないので…」。

今季はここまで9試合に登板して、先頭打者の出塁を許したのは4月13日ソフトバンク戦で柳田に二塁打を打たれた1度のみ。残り8度は封じ込み、無失点でバトンをつないでいる。

「娘を助けないと。だから、良い意味の緊張感を持っていけてますね。先頭をアウトに取ったら、少しは楽になるので」

その意識から、今季ここまで被安打2で、右打者被打率0割8分3厘、左打者被打率0割7分1厘と好救援を見せている。

14人きょうだい6番目の三男。姉3人、兄2人、弟8人。守るべき人は、たくさんいる。これからも何度も娘を守り、歓喜の「ナハナハ」ポーズを決める。【オリックス担当=真柴健】