両手に持ったメガホンをプルプル揺らし、阪神のマスコット・トラッキーは、打席に立つ選手へパワーを送っていた。その左右ではタイガースガールがポンポンを振り続けた。その姿はテレビ画面の向こうの虎党の思いを代弁するかのようだった。

4月30日の「阪神-広島」は、緊急事態宣言のため、今季甲子園では初の無観客試合で行われた。一塁側カメラマン席後方に設置されたステージでは、阪神の攻撃中にチアのタイガースガールズとマスコットたちが交代で、踊り続けた。担当する事業本部営業部の大西邦佳部長(47)は「タイガースの選手を鼓舞する。お客さんがいない中、成り代わって彼女たちがその役目を果たしてくれています」と話した。

そのスタイルは台湾プロ野球方式。16年から台湾デーを開催し、台湾プロ野球や台湾球団のチアとも交流を続けている。その縁もあり昨年の無観客試合では「加油(ジャーヨウ=頑張れ)虎隊ステージ」と命名し3試合を予定。雨で1試合しかできなかったが、今年の急な無観客試合開催にもその経験を生かした。

今年は新たにスタッフが手作りで作ったメッセージボードをマスコットが掲げるなど、さらにバージョンアップしている。テレビにも映らない。観客に見られることもない。一塁側ベンチの阪神選手からも見えない。それでも、1回から9回まで事前録音された応援歌に合わせて踊り続ける。普段の出番より踊る時間も長い。

タイガースチアのメンバー16人は、踊れることに充実感を感じている。昨年はコロナ禍によりフルメンバーで活動できず、不完全燃焼だった。そのため、メンバーを入れ替えず16人で今季を迎えた。大西さんは「今年にかける彼女たちの思いはすごく強い」と話す。現在はまだリスク回避のため8人ずつ2班に分けて活動している。今季終盤には、多くの観客が戻った甲子園で、16人そろってパフォーマンスできる日が来てほしい。無言の笑顔でエールを送り続ける彼女たちの力も、首位阪神を支えている。【阪神担当=石橋隆雄】