過去記事を検索してみたところ、2010年の12月28日だったらしい。

朝から東京・東伏見の早大安部寮前に立っていた。あえて当時の書き方をすれば、斎藤佑樹投手(4年=早実)が日本ハム入りを前に退寮する日だった。

数時間、ひたすら直立していると、自室のベランダをはき掃除していた斎藤が降りてきた。「お待たせしてすみません。まだ終わらないんですが、よかったらこれ食べててください」。手には赤い箱が2つ。入団会見時に買ってきたという「じゃがポックル」を差し入れしてくれた。確か北海道限定で、当時品薄でニュースになっていたお菓子だ。粋な気遣いに、寒い寒いと凍えていた我々記者とカメラマンが一斉に笑顔になったのを覚えている。

西武入りした大石(現西武2軍投手コーチ)、福井(現楽天)もいた早大の試合は、いつもスカウトが大勢来ていた。野球担当1年目だった私にとっては勉強の場でもあった。隣に座らせてもらい、3人の投球を教材に「キレのいい真っすぐってどういうことか分かる?」と、今思えば“基本の基”みたいなことから教えてもらった。

私事だが元々2010年はサッカー担当をするはずだった。担当クラブが決まり、広報にあいさつも済ませた3月、会社から「明日からアマ野球担当でお願い」と急な公示が出た。この年はドラフト候補が豊作で、斎藤佑樹がいる。高校大学を中心に取材するアマ担当を増員すべき、との方針になったと説明を受けた。

結局あれからずっと野球の部署にいる。日本ハムを担当したことはないし、アマでも“番記者”だったわけではない。現役引退と聞いて思い出されたのが「じゃがポックル」だから、関わりは大きくはなかった。けれど斎藤の存在によって、記者としての方向性が大きく変わった。同じように、斎藤本人も知らないところで影響を与えた人数は数え切れないほどだろう。趣味でも仕事でも。とにかくたくさんの人を動かした。紛れもなく、スターだったんだと思う。【遊軍 鎌田良美】

2010年12月28日 報道陣へ北海道土産の「じゃがポックル」を配る早大・斎藤佑樹
2010年12月28日 報道陣へ北海道土産の「じゃがポックル」を配る早大・斎藤佑樹
2010年12月28日 4年間過ごした野球部寮へ別れを告げる早大・斎藤佑樹
2010年12月28日 4年間過ごした野球部寮へ別れを告げる早大・斎藤佑樹
2010年12月28日 退寮する前にベランダを掃除する早大・斎藤佑樹
2010年12月28日 退寮する前にベランダを掃除する早大・斎藤佑樹