日本ハム栗山英樹監督(60)が、10年に及んだ長旅に、ひとまず終止符を打った。
10月30日の最終戦はテレビ観戦となったが、いつも以上に笑顔が優しく見えた。この10年、どんな時もメディアの前に立ち、言葉を発してきたが、来季はもう、その声を聞くことがないのかと思うと、寂しい気持ちになる。
退任報道が出てからの半月、栗山監督はいつにも増して冗舌だった。プロ野球の監督でありながら、まるで「記者を育てなければ」という使命感に駆られているようでもあった。これまでなら「(監督を)辞めたら言うよ」と受け流していた質問にも、詳しく理由を語るようになっていた。
10月16日のオリックス戦(札幌ドーム)。9回に代打で送られた杉谷拳士が、右打席に立った。相手は右腕のオリックス平野。両打ちの選手なら、左打席に入るのが定石だ。翌日、自身も両打ちだった栗山監督は、現役時代の話を例に、詳細に意図を明かした。「左投手だから右打席に立つと、全然タイミングが合わないことがあった。これでは無理と、左に立ってヒットを打ったことがある」と。大事なのは、現在の打撃が、どちらの打席に合っているのか。相手投手との兼ね合いも重要なポイントだ。
今季打撃不振に陥っていた杉谷は、9月1日に出場選手登録を外れ、1カ月以上も1軍に戻って来なかった。「どんな投手の時に(左右)どちらに立ったらいいのか? ファームで、いろいろ研究してみろ」。指揮官は、そう言って、2軍へ送り出したのだという。「右だから左、左だから右というルールはない。そのことは、打ち破らないといけない。そう、思いたい」。結局、常識を破ったオリックス戦での打席、杉谷は見逃し三振に倒れた。だが、その5日後には、ソフトバンクの守護神、森との「右対右」の対決を制し、起死回生の同点二塁打を放った。
プロの世界は、天才ばかりではない。栗山監督は「何かに向かって怖がらずにチャレンジする彼の姿が、とても好き。先入観にとらわれるなというのは、そういうこと」と、うなずいた。どうすれば、選手たちが、この世界で1日でも長くプレーすることが出来るのか。どうすれば、野球界に恩返しが出来るのか。選手に寄り添い、ともに走ってきた旅のゴールは、もっとはるか先にある。【中島宙恵】




