3冠王のヤクルト村上宗隆が2年連続MVPに輝いた今オフ、同じプロ5年目、同じ熊本からプロ入りした広島山口翔投手(23)は戦力外通告を受けた。トライアウト受験も他11球団からのオファーはなく、九州アジアリーグ「火の国サラマンダーズ」からNPB復帰を目指すことを決めた。

デビューは鮮烈だった。プロ2年目の19年。プロ初先発初勝利の5月30日ヤクルト戦では初勝利を挙げたが、プロとしての1歩を踏み出したのは同7日の中日戦だった。5点ビハインドの7回に登板。3安打を浴びて1点を失うも、2奪三振。後日、中日ベンチでは、指にかかった真っすぐに「すごい球を投げる。マエケン(現ツインズ・前田)以来かも」という驚嘆の声が上がっていたと聞く。同年の9試合登板で1勝3敗は、近い未来への投資と感じていたが、周囲が描いていた未来が訪れることはなかった。ケガもあり、フォームを崩し、ようやく感覚をつかんだときにはもう5年目だった。

「もともと広島に住んでいて、ずっとカープファンだった。カープに入ることができて良かったですし、その中で活躍できなかったのが、一番悔しい。投げられなくて、待たせてしまいすぎて、このような結果になって申し訳ないです。一番は親孝行ができなかったのが悔しいです」

戦力外通告を受けた直後はうっすら涙を浮かべた。トライアウト受験後、現役引退を含め、社会人チームを含め4球団ほどのオファーから答えを出した。「まだ元気ですし、トライアウトで(野球が)楽しかったので、まだ野球を辞めたくなかった」。真っ先に声をかけてくれたのが、地元熊本の球団だったことも大きかった。加えて、同期同学年の広島遠藤が山口への思いを語った記事に奮い立たされた。「覚悟を持ってやる」。NPB復帰を目指す期間は来年1年限定。長引かせるつもりはない。もし、ダメなら現役を辞める覚悟。プロ入りを果たした地元熊本で、あの真っすぐを取り戻す戦いを続けていく。【広島担当=前原淳】

12球団合同トライアウト 投球する広島山口(2022年11月8日撮影)
12球団合同トライアウト 投球する広島山口(2022年11月8日撮影)