正直、気の毒だなと思った。8月13日の巨人-DeNA18回戦(東京ドーム)で起きた「観衆の妨害」についてだ。

4回裏、巨人坂本勇人内野手(34)の打球はレフトフェンスを越えるか、どうかの際どい当たりとなった。二塁塁審は、フェンス上段に打球が当たった(本塁打ではなかった)として「インプレー」と判定。これに対し、原監督がリクエストを求めた。フェンスオーバーしたのでは、ということ。検証の結果「打球はフェンスを越えていない」と判断され、判定通り二塁打として試合が再開された。

これだけなら、特筆することはない。ところが、リプレー検証で映像が見返されたことで、明らかになったことが別にあった。レフトスタンド最前列の観客がフェンスを越えて手を差し出し、その手に打球が触れていたことだ。

この行為は、公認野球規則6.01(e)が定める「観衆の妨害」に該当する。同項は、次の通り。

「打球または送球に対して観衆の妨害があったときは、妨害と同時にボールデッドとなり、審判員は、もし妨害がなかったら競技はどのような状態になったかを判断して、ボールデッド後の処置をとる」

では、今回はどう判断されたかだが、観客の手は確かにボールに触れていたが、仮に触れていなくてもフェンスは越えていなかったと判断され、やはり当初の判定通り二塁打とされた。

これだけなら、フェンスを越えて手を出すのはやめて下さいね、というだけで済んだだろう。問題はこの後。審判員による場内放送で「観客の妨害がありましたので、オーバーフェンスとせず、二塁打として試合を再開します」と流れたことだ。そのため、球場にいた人も、中継を見ていた人も、多くが「観客の妨害があったので、本塁打が二塁打に変更された」と解釈しただろう。観客のせいで、坂本のホームランが幻になった、と。

実際は違う。観客の妨害に関係なく、そもそも、打球はフェンスを越えていなかった。言葉足らずで不正確なアナウンスだったと言わざるを得ない。この点、日本野球機構(NPB)も翌日に異例の声明を出し、「誤解されかねない表現」と認め、審判員の場内放送の改善を約束した。あるべき形として、評価できる。

さて、冒頭に「気の毒」と書いたのは、手を出してしまったファンのことだ。もちろん、手を出すのは認められた行為ではない。ただ、一方で、目の前に打球が飛んできたら、反射的に手を伸ばしてしまうのは極めて自然だとも思う。公認野球規則は「妨害」という強い表現を使っているが、これは、あくまで専門用語。一般的な言葉の感覚で言えば、当該行為は「マナー違反」ぐらいではないか。

確かに、マナー違反は良くない。だからといって、そんなに責めなくても…とも思う。見たところ、巨人ファンの人だった。まさか坂本のホームランを妨害するはずもないし、本当に興奮して思わず手を伸ばしたんだろうな、と容易に想像できる。ネットの書き込みには「やりすぎ」と感じるものが散見された。

予防策として、フェンスの上に柵やアクリル板などを伸ばして、物理的に手を出せないようにしたらいいという意見を目にした。建設的な考えだと思う。一方で、あるプロ野球OBは「(柵などを)やりすぎれば、お客さんとグラウンドの距離が離れてしまう」と危惧していた。「妨害がなければどうなっていたかを判断していけば済む話」とも。そのとおりで、そのためにルールがある。

今回は、リプレー検証があったことで妨害行為が明らかになった。最初に二塁打と判定した審判員は、ファンの手に打球が触れたことは分かっていなかった。あらためて映像の力を感じさせられるが、同時に、映像が繰り返し流れたことで、必要以上にファンが責められてしまった面もある。だから気の毒だと思うし、これにめげず、また球場に足を運んで欲しいとも思う。

いろいろな意見があるのは当然。いずれにせよ、特定の個人を攻撃するのではなく、場内放送の改善とともに、観戦マナーや球場のより良いあり方を考える機会になればと願う。【NPB担当=古川真弥】

巨人対DeNA 4回裏巨人無死、リプレー検証で判定が覆らず二塁打となり、倒れ込む坂本(手前)(2023年8月13日撮影)
巨人対DeNA 4回裏巨人無死、リプレー検証で判定が覆らず二塁打となり、倒れ込む坂本(手前)(2023年8月13日撮影)