日本ハム木田優夫2軍監督(55)が、シンプルかつ奥深い究極の投手像を語ってくれた。
8月7日、初めて千葉・鎌ケ谷スタジアムで取材をした日のことだ。イースタン・リーグ西武戦の後、勇翔寮の前で目当ての選手を取材した。最後に木田監督がグラウンドから帰ってきた。数人の記者による囲み取材が始まり、私は途中からその輪に加わった。すると先輩記者が「何か監督に聞きたいことある?」と木田監督への質問の機会をくれた。質問を用意していなかった私はとっさに「木田監督にとって良いピッチャーとはどんなピッチャーか」と聞いた。
木田監督は「むずかしいな…」とうつむき考え込んだ。数秒間の沈黙の後、口を開いた。結論は「いろんな球でストライクを取って、バッターに振らせないピッチャー」だという。ここでの「振らせない」とは、27人の打者全員を見逃し三振に取るという意味だ。
なぜ「振らせない」ことが良いピッチャーの条件なのか。答えはシンプルだった。「バットを振らせなければ、それが一番何も起こらない」から。ストライクの取り方は3種類ある。空振り、ファウル、そして見逃し。打者がスイングをしないのは見逃しだけだ。物理的にバットがボールに当たらないのだから、何も起きるはずがない。当然のことだが、28年の現役生活で日米通算1104個の三振を奪ってきた名投手の答えは斬新だった。
私は25歳の新人記者だ。木田監督が現役晩年時の記憶はある。今と同じように大きいサイズのユニホームを着て、日本ハムの選手としてマウンドに立っていた。派手さはなくても、横手から多彩な変化球を自在に操る技巧派投手のイメージだった。調べてみると、かつては剛速球が武器の投手だったらしい。今になって思えば、私が見た晩年の木田投手は「いろんな球でストライクを取って、バッターに振らせないピッチャー」だったと思う。
野球は18・44メートルからピッチャーが投げたボールをバッターが打ち返す一見シンプルなスポーツだ。だが投手も野手も、スタイルは人それぞれで、奥深い。阪神や広島で活躍した江夏豊氏(75)は、1球で打者を打ち取ることが理想と語っている。木田監督は正反対だ。
選手1人1人に、経験から導き出されたやり方がある。新人記者の質問に真剣に答えてくださった木田監督、ありがとうございました。【遊軍=黒須亮】