メジャーでもマイナーでも、球速160キロを超える投手は山ほどいた。ただ、160キロを投げても痛打される投手も数えきれないほどいた。ここに日本人投手が割って入る余地がある。

パドレス傘下2Aアマリロで戦う牧田和久投手(34)は「球が速いのはもちろん魅力だけど、速いだけじゃダメなんだと分かる。おそらく球持ちじゃないですか。球離れが早いんだと思います」と推測した。その点、日本人投手は幼少期からメカニックを丁寧に研究してきた強みがある。可能な限り打者寄りのリリースポイントがあれば、150キロ前後でも160キロ超の棒球を上回ることは十分可能という印象だ。

メジャー移籍1年目で打撃フォームを改良したイチロー
メジャー移籍1年目で打撃フォームを改良したイチロー

打者にしても、走攻守の3拍子がそろった日本人選手に対する注目は今も低くない。「フライボール革命」の浸透で長距離砲がもてはやされる時代。一方で、ある大リーグ編成関係者は「今は打つだけの選手は契約してもらえない。守備も走塁もできないと取ってもらえない」と説明する。たとえば西武秋山のような選手がニーズにマッチする球団は少なくなさそうだ。

純粋に能力だけで考えれば、メジャーで通用する可能性のある日本人選手は多くいる。となると結局は「適応能力」の有無が米国で活躍できるか否かを大きく左右するのかもしれない。

メジャー移籍1年目で打撃フォームを改良した大谷
メジャー移籍1年目で打撃フォームを改良した大谷

マリナーズ・イチロー、エンゼルス大谷はメジャー移籍直後に足の上げ方を改良した。ドジャース黒田も投球スタイルを変えた。今季ナ・リーグ2位タイの7勝をあげているドジャース前田は「変化することもすごく大事。日本のスタイルにこだわり過ぎるのも良くないし、自分を見失うのも良くない。感じたことでアジャストしていくしかない」と力を込める。

メジャーの球場はマウンドが硬くてボールが滑る。前田は海を渡った後、広島時代の握りを2つ捨てた。「中学生のころから自信を持っていたカーブが通用しなくて、15、16年間同じだった握りを変えた。チェンジアップも10年ぐらい武器にしていた握りを変えた。要は追い込まれた時にどうするか。日本でやってきたことなんて誰も評価してくれないんで」。今、米国仕様のチェンジアップは前田の代名詞になりつつある。

そういえば、メジャー昇格を目指して奮闘する2人がある話題で似たように驚いていた。マイナーリーグではナイター後の深夜、7~10時間の長距離バス移動を強いられるのが日常茶飯事。それでも仲間が「疲れた」と口にすることはめったにないというのだ。

アマリロ牧田が「うちの選手は移動で疲れたそぶりを見せない。それが当たり前だから」と証言すれば、ヤンキース傘下3Aスクラントン加藤も「こっちには寝なくてもプレーできる選手がいる」と話していた。

置かれた環境にベストを尽くしてアジャストする-。この鉄則を実行せずして成功なし、ということか。(つづく)【佐井陽介】

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。