「Boo~!」と声を張る瞬間を、多くの野球ファンが楽しんでいた。

メジャー取材中、何度となくブーイングを耳にした。15年オフにドジャースから超大型契約でダイヤモンドバックスにFA移籍した右腕グリンキーは、いまだにドジャースタジアムで儀式のように大ブーイングを食らう。悪質プレーですっかりヒール役が板についたパドレス・マチャドに対する「Boo!」もなかなかタフなものがある。プレーや采配に対しても、観客は割とはっきり「YES」「NO」をあらわにする。

このブーイングだが、日本の球場でたまに聞こえてくる強烈なヤジとは少し性質が異なる。ファンは鬼気迫る表情で、というよりはどこか楽しそう。受け手側の表情がこわばることもない。ドジャース前田健太投手(31)がある時、話していた。「米国では、いい選手に対して相手ファンがブーイングする。ブーイングされるのは選手としては名誉なことなんです」。野球ファンが球場観戦をより楽しむツールの1つとして、ブーイングを活用している印象が強かった。

米国の野球場は「enjoy」のさせ方、仕方が上手だ。イニング間に「YMCA」で踊らせたり、カップルをカメラで抜いてキスを促す「キスカム(kiss cam)」は恒例。球場の大画面に映し出されたら、大半はノリノリでイベントに乗っかる。観客がまばらな1Aゲームでは突然「lonely cam」が始まり、切ない音楽をバックに1人きりの観客が軒並みターゲットにされていた。ここでもお客さんは恥ずかしがらずガッツポーズで“応戦”したりするから、さすがだ。

帰国後、現役外国人選手では最長の来日10年目を迎えた阪神ランディ・メッセンジャー投手(37)に、日米の球場の雰囲気について雑談する機会があった。

メジャーで通算173試合に登板した右腕は「日本では1人1人に応援歌があって個人を応援してくれる。米国ではよほど大事な記録が懸かっていない限り、個人を応援することはない。どちらにもいい部分があるよ」と強調した上で、大リーグの雰囲気を懐かしそうに振り返った。

「確かに米国では球場全体の雰囲気を楽しむために来るファンが多いね。ブーイングにしても、みんな楽しむためにやっている。厳しいブーイングを受けるのも高給取りぐらいだしね」

野球ファンなら誰もが知る通り、米国では野球場を「ballpark」と表現する。「park」、つまり「公園」だ。確かに「公園」には、子どもに聞かせられないような、ひどい言葉を使ったヤジは似合わない。マイナスの意思表示をするにしても、笑顔のブーイングぐらいがちょうどいいのかもしれない。今、日本の野球場も着々と「ballpark」化が進んでいる。日米問わず、さらに「enjoy」の輪が広がればいいなと願う。(この項おわり)【佐井陽介】

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。