平成最後、令和元年のペナントレースも折り返し間近。日刊スポーツ評論家が序盤戦から感じた独自の視点で論陣を張った。第1回は谷繁元信氏(48)が「采配」について語った。

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谷繁は、評論を行う試合前に論点となりそうなテーマを絞っておく。「楽天浅村への攻め方は」「大型連敗を止める方法は」。展開を注視し、テーマに沿って深掘りしていく。捕手出身らしく事前の洞察が当たることが極めて多い。それでも、テーマと試合展開がフィットしなければ、新たな論点を探す。ここに昨季との違いを感じるという。

谷繁元信氏
谷繁元信氏

谷繁 去年は正直、テーマを見つけるのが難しい試合も多かった。試合の中での作戦などでの「動き」が少なく、投手対打者の攻防に終始し、漫然と展開が流れていった。だが今年はポイントのシーンが多い。評論しやすいというか、面白いなと感じる試合が増えた気がする。

感嘆したのは4月29日の巨人-DeNA戦。1点を追う巨人は、5回無死満塁で打率3割4分6厘の山本に対し、中盤でも惜しみなく切り札の阿部を代打に送った。さらに小林にも代打大城を送り、同点に追いついても、91球で余力の残る投手山口に代打石川を送った。3連続代打&バッテリーの総入れ替えで試合を動かしにいった。

4月29日、DeNA戦で阿部を代打に送る原監督
4月29日、DeNA戦で阿部を代打に送る原監督

谷繁 山口には代打は送らないと思っていた。でも原監督は、例えるなら穏やかな水面に石を1個だけでなく2、3個と投げ入れて波紋を立て、自らうねりを起こしていた。敗れれば、間違いなく分け目のポイント。ここまで思い切った手はなかなか打てない。代打攻勢で一時逆転し、結果的に試合には敗れたが、自ら試合を動かそうとする原監督の感性がある。

一方で、日本球界でも導入が目立ち始めたメジャー発の新戦術「オープナー」「ショート・スターター」には疑問を感じている。

谷繁 メジャーのように中4日で先発ローテを回すなら分かるが、中6日が中心の日本に当てはまるのか。本来、先発型の投手を短いイニングで使うことは、プロ野球人生の能力開花を縮める可能性もある。球数をどの選手にも一定して制限することも、一概にケガの予防になるわけではないと思う。人によって限界が違うわけだから。

歴代最多の3021試合に出場した谷繁は、多くの出場機会によって成長した名選手だった。実力が備わっていることは必須条件ではある。だが「采配」によってチームの勝敗も、選手の完成形も変わってくる。(敬称略)【広重竜太郎】