全国高校野球選手権大会が6日、甲子園で開幕した。101回目を迎えた夏は、どんなドラマが待っているのか。さまざまな角度から、球児たちの熱き戦いを追う。

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飯山(長野)の青年監督は「負ける覚悟」というフレーズを使い、長野大会を勝ち抜いてきた。公立校の快挙とセットでこの言葉を眺める時、負けてもともと、当たって砕けろのニュアンスを感じていた。

それは違うことを、甲子園大会まで取材を続けて初めて知った。

吉池拓弥監督(28)は、この5文字に思いを込めた。長野大会3回戦、東京都市大塩尻戦前に初めて使った。「この大会初の格上チームでした。気持ちをひとつにしたいと思っていました。頭の中にはメンバーを外れた3年生の最後のプレーがありました」。

7月1日、吉池監督は長野大会のメンバー20人を発表する。3年生25人(女子マネジャー2人を含む)でメンバー外の3年は4人。

2日後の3日、メンバー外の4人を入れたチームで、長野西との引退試合(飯山市営球場)に臨んだ。ここで4選手のプレーが、吉池監督の目に焼きつく。一心不乱にバットを振る姿の中に「負ける覚悟」というフレーズを見た。

引退試合で4打数3安打1本塁打の松永勇一朗内野手(3年)の心境はこうだった。「どうなってもいいと思ってやりました。ケガなんか心配しなかったし、打てるかどうかの結果も気にする必要もなかった。これが最後。何も考えず打ちました」。

吉池監督が、東京都市大塩尻戦前にチームに伝えたかったエッセンスだった。

吉池監督 メンバーを外れた3年生が、集中し無心でプレーする姿が伝わってきました。もう、これが最後。打てなかったらどうしようとか、そんな思いは一切なく、夢中でボールを追う。そこに目が引き寄せられました。

飯山は準決勝で優勝候補の上田西に挑む。吉池監督は試合前に語りかけた。

吉池監督 うちが相手よりも上回っているものがあるなら「負ける覚悟」だ。相手は負けるとは思っていない。でも、こっちには覚悟がある。最後の試合になる覚悟がある。この違いで相手を焦らせることもあるはずだ。覚悟が、自分のためにも、そしてチームのためにもなる。

松永は、監督の言葉のルーツが長野西戦での自分たちのプレーだと知り「最後の試合に臨んだ姿が、チームのために役に立っているなんてうれしいです」と言った。

吉池監督 これが公立校のいいところですね。ひとつになれる。ずっと一緒にやってきましたからね。

昨年10月に野球部監督に就任した。夏の大会でメンバーを選考し、外れた3年生に声をかけるのも初めてだった。「どう言葉をかければいいのか、とても難しかったですね。私は『みんなは俺の自慢の3年生だ。最後まで自慢の3年生でいてくれ』と伝えました」。

豪雪地帯から勝ち抜いてきた公立校が、初の甲子園出場で挑む。9日の第2試合。今大会出場最多28回、東北の雄・仙台育英にぶつかる。

心をひとつに。自慢の3年生と、ベンチの18人、マネジャーを含めた全部員がひとつの塊となれるか。さあ、今夏・長野チャンピオンの初陣。【井上真】