投球についての客観的指標として注目される「回転数」「回転軸」「球速」について、筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏(49)に「動作解析」の視点から聞く。

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球質は「球速」「回転軸」「(単位時間当たりの)回転数」の3つの観点で見ることが必要で、回転数が高い投手は球速も速いとされるが、一概には言えないという。

川村氏 SPV(スピンレート・パー・ベロシティ)といって、回転数を球速で除することで算出されます。基本的には速度とスピンは比例するといわれていますが、そこに何らかの作用が加わって、大きく変化することもあるのです。

川村氏が計測した中で、150キロ以上を投げる投手で回転数が毎分2400回転近い選手と、ほぼ同じ球速ながら、回転数が2000以下という投手がいたという。本来は指の腹でボールを転がした後に指先で強くはじくことでスピンがかかるが、回転数が少ない投手は指の腹全体を使い、点よりは面で球を押し出すため、速度はあるがスピンがかからない。しかし、逆にボールが伸びてこないため、打ちにくくなるという。

川村氏 個人差があるので、一概に「これがいい」と言えないのが難しい。球速と回転数が高くても、回転軸が加わると傾きによって伸び方も違ってきます。

変化球は大きく2つに分類できる。

川村氏 1つは回転系のスライダーやカーブ。あえてボールを回転させ「マグヌス効果」を使うことで、変化を起こす。無回転系はフォーク。回転を起こさずに重力によって変化させる。ソフトバンク千賀投手のフォークがそう。ただ回転も伴って落ちる球もあり、ジャイロボールや、サイドスピンがかかったチェンジアップなどがそうです。

スピン、回転軸のかけ方、フォームの角度、力感によって微妙に変化する。投球とは、1球ごとに繊細な作業の連続だ。

川村氏 プロの選手でも130キロ前後の球で勝つ投手がいます。速度に比べ回転数、回転軸がいいとマグヌス効果が打者の見た目で伸びたと感じやすくなるからです。また、エンゼルス大谷翔平投手のように160キロでもバットに当てられてしまうことがあります。それは、球のSPVが低い、もしくは速すぎてマグヌス効果が出る前に打者に到達してしまうからともいわれています。

投手それぞれの特性、そして野球を深く理解することで、ベストなプレーができる可能性が高まる。

川村氏 投げ方、ボールの変化の話も含め、どうやって戦術として使い分けられるか。よく同じ軌道から変化する、もしくは変化しないのが効果的(ピッチトンネル)といわれます。打者からは球の出どころが同じように見えて、変化する。また、真っすぐと変化球をうまく配球し緩急をつける。いかに打者にとって軌道の予測がつかない球を投げるか。難しいですが、そこを理解して、ケガなくいい選手を育てていくことが指導者の課題でしょう。

スポーツ科学で野球を研究する筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)
スポーツ科学で野球を研究する筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)

選手のケガを防ぎながら、よりよいパフォーマンスを導き出す。「動作解析」は、今後の野球界への大きな提言になるはずだ。(この項おわり)【保坂淑子】

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成の主将、外野手として88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将として活躍した。卒業後、浜頓別高校の教員および野球部監督を経て、00年10月、筑波大硬式野球部監督に就任。現在、筑波大体育系准教授も務める。専門はスポーツ科学で、野球専門の研究者として屈指の存在。