ロボットの導入を、審判自身はどう受け止めているのか。アトランティックリーグのフレッド・テヘスス審判(42)に聞いた。

アトランティックリーグのフレッド・テヘスス審判(撮影・水次祥子)
アトランティックリーグのフレッド・テヘスス審判(撮影・水次祥子)

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事前に想像したのは人間とロボットの対立だ。プロとしての誇りを持つ審判が、ロボットの指示に従い、ただ体を動かすだけの状況に果たして納得できるのだろうかという疑問があった。だが同審判からは「トラックマンによる判定は歓迎だよ。野球界にとっていいことだと思う」と意外な答えが返ってきた。

審判にとってロボット判定のメリットは、コンピューターによって機械的に決められたストライクゾーンを使うため、誰も異論を挟む余地がないということだ。「トラックマン導入後、選手が判定にクレームをつけてくることは一切なくなった。もめ事が起こらない」と満面の笑みで同審判は言った。

メジャーでは、ストライクの判定をめぐる球審と打者のいさかいは日常茶飯事だ。最近の試合テレビ中継は、ストライクゾーンを白線で表示し映像に重ねるテレビ局がほとんどであるため、審判のコールミスが誰でも簡単に目視できる。ロボット判定が導入される前からすでに、審判の威厳が脅かされていたため、いっそコンピューターに判定を任せた方が審判としてはむしろ納得できるのだろう。

ロボットが導入されたからといって、審判が失業するわけではないというのもプラス要因だ。トラックマンオペレーターは、ボールがホームプレートを通過してから10分の1秒で判定を球審に伝えており「コールの時差もない」と同審判は断言した。

ただし導入初期であるため、選手や監督、コーチからは判定が不安定だという声が出ている。トラックマンによる判定システムは、実際の球やホームプレートの位置ではなく、コンピューターのアルゴリズムで決められており、このストライクゾーンがすべて絶対的正解ではなく、エラーも起こる。打者は身長や打撃スタンスにより、コンピューターのストライクゾーンに適応することがより難しい場合もある。

それでも今後数年かけて改善が施されれば、ロボット審判が将来的にメジャーで導入される可能性が高い。ロボットによって審判が職を奪われることはなくても、人の審判の責任が軽くなることで減俸されると懸念する声もある。フィリーズの強打者リース・ホスキンス(26)は「願わくば僕が現役でいるうちはロボットに審判をしないでほしい」と話している。(つづく)

【水次祥子】