ロッテのドラフト1位右腕で、最速163キロを誇る大船渡・佐々木朗希投手(3年)は3年前に「Kボール」でプレーしていた。

中学3年の夏、中学の軟式野球部の活動を終え、三陸南部地区のKボールチーム「オール気仙」で夏を過ごした。軟球から硬球の懸け橋であるKボール。岩手県は特に盛んで、全県で15チームが活動し、県大会やセレクションを経て「岩手県選抜」が結成される。

3年前は佐々木も赤いユニホームをまとい、千葉・成田での全国大会に出場した。今秋は全国準優勝を果たすなど、レベルは高い。県選抜団長の下川恵司(60)は「朗希はまだノーコンだった」と笑いながら、岩手県内の大会では与四死球は多くなかったという。

理由がある。「岩手県内のKボール大会では、ストライクゾーンをわざと広くしているんです」。右打者なら、左打席の本塁寄りのラインまでがストライク。高低では胸上までがストライク。さらに、同大会ではバントも禁止だ。

「バットを振らせるためですよ」と下川は言う。岩手の高校野球は好投手が育っても、全国では打てずに敗れてきた。「どうやったら振るように、打てるようになるか。待つと不利になる、という状況を作ればいいと思ったんです」。

相次ぐ「怪物」の輩出だけでなく、花巻東と盛岡大付は全国優勝を狙える位置に達してきた。下地の1つがKボールにある。組織の趣旨上、中体連では実行困難な大胆策を、下川らがKボールで実現していった。

県単位の取り組みは広がりを見せる。岐阜県では「日本一づくり特別強化事業」の1つに中学、高校野球が選ばれた。団長の佐野竜(46)は「県内4地区で中1の時から選抜強化練習をしています。今年はそんな子たちが中3になる、初めての代なんです」と言う。高校では中京学院大中京が全国4強、中学ではオール岐阜が全国8強。少しずつ成果が出始めている。

高校野球への懸け橋になったKボールは、実はもうほとんど見かけない。Kボールの流れをくんだM号球が開発され、昨年から中体連大会でも使われる。志太が会長を務める中野連の全国大会でもM号球だ。それでもKボールがこの20年で生んだ成果は大きい。多くの中学生を成長させ、高校野球へ巣立たせた。

今年も全国大会が終わった。志太は閉会式で、優秀選手に「志の鐘」を贈る。「一緒に鳴らそう」と声をかける。カーン、カーン。幸せな音色が伊豆の山に響き、中学生たちも無邪気にほほ笑んだ。(敬称略=つづく)

【金子真仁】