“お股ニキ”というツイッターから生まれた有名人がいる。昨春、初の著書「セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論」(光文社新書)がベストセラーとなり、12月に2冊目を出版。名をはせたきっかけは、カブスのダルビッシュ投手だった。

「セイバーメトリクスの落とし穴」(お股ニキ著、光文社新書)
「セイバーメトリクスの落とし穴」(お股ニキ著、光文社新書)

ツイッターで以前から野球に関して鋭い分析や意見を発信していたところ同投手の目に留まり、交流がスタート。たちまち、メジャーリーガーに助言できる「プロのような素人」として話題になった。お股ニキはハンドルネームだが、それをそのまま著者名に使用し、本名や年齢、素性は非公表。一体何者なのか、と思っている人は多いだろう。

お股ニキに取材を申し込むと、意外にも快く応じてくれた。有名になることは「まったく思っていませんでした。何も気にせず本音でつぶやいていた」という。だが自分のセンスに関しては「少し自信を持っていた。感じたことを的確に、かつ面白おかしく表現したいという気持ちはある」とも。大ブレークした今は「素人史上最も、日本人メジャーリーガーに良くも悪くも認知された人間かもしれない」と自負する。

だがそんなお股ニキも、ブレーク前は人生がうまくいかず、どん底を味わっていたらしい。「本業が何かは自分でもよく分からない。昔は会社員。投資銀行で働いていたことはある。(今は)名ばかりの自分の事務所がある」という。有名になってからは他のプロ選手とも交流が始まり「意外とプロの方が(素人の意見を聞くことに)寛容なのが驚き。レベルの高い選手ほど、ちょっと言えば理解してすぐにできたりする」と話す。

ツイッターやネットで有名になるのはこういう人なのか、と納得した。アイデアやセンスがあり、失うものは何もないとばかりに本音で語ることができ、運もあるがそれを生かすバイタリティーもある。セルフプロモーションもうまい。

お股ニキの2作目「なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか」(宝島社新書)は、データを駆使してセ、パの違い、采配の差を分析し、監督の能力を測る「監督WAR」を算出しているのが目新しい。

ダルビッシュやヤンキース田中ら、日本人メジャー投手の長所と短所について各種データを示しながら分析しているのも読み応えがある。聞くと、データに強いアシスタントをネット上でスカウトし、表作成などを任せているという。ネットを通してほとんどのことをこなしているのが面白い。すでにもう2冊の出版も決まっており、お股旋風はまだ続きそうだ。【水次祥子】