昨季まで巨人の投手コーチを務めた小谷正勝氏(74)が哲学を語る不定期連載。昨年、がんの治療で入院中に読み込んだ本からインスピレーションを受ける。

92年10月、投球練習をする三浦大輔
92年10月、投球練習をする三浦大輔

「球数制限」について、プロの世界を考えてみよう。昨年まで約半世紀、プロ野球界に携わったが、最近の投手は球球を少なくする傾向にある。肩は消耗品、トレーニングが進化した…いろいろな理由があろうが、本当にそうだろうか。

大正、昭和に活躍した放浪の俳人、種田山頭火が日記に記した一節がある。

「執着しないのが、必ずしも本当ではない、執着し、執着しつくすのが本当だ、耽る、凝る、溺れる、淫する、等々の言葉が表現するところまでゆかなければ嘘だ、そこまでゆかなければ、その味は解らない」

そのままピッチングにも通じるなと思った。

投手の原点はアウトローにある。打者から一番遠く、長打になりにくいボールなのだが、そこの出し入れができて初めて、配球論や次の段階に進める。プロの世界でも、目標にも投げられないのに肩は消耗品と考え、あまり投げ込まない人がいる。私ならブルペンで投げて投げて、狙ったところに投げられる感覚、コツをつかむまで練習する。研究心、感受性は技術を向上させる上で大切である。

一番大切なのは「プロとは何ぞや」との自覚を持つこと。お客さんができないプレーを、簡単にこなすのがプロだ。スピードで魅了するのも1つだが、制球力もプロの技。若くて球に力があるうちは打ち損じが期待できるが、球に力がなくなり制球が悪いと惨めな思いをして、勝負の世界から去っていく日が近づく。

大洋の投手コーチだった92年、現在DeNAで2軍監督を務める三浦大輔に出会った。インパクトでヘッドを少し引っ掛けるクセはあったが、体のこなしは良かった。試合で駆け引き、その他もろもろを身につけた方がいいと判断した。

当時の2軍監督、米田慶三郎さんに理由を説明し、中4~5日の間隔で100球、及び5回をめどに投げさせてほしいと要望を出した。今思うと、2軍時代に高卒1年目で中4~5日で1年間投げ抜いたのが、あの三浦の粘っこいピッチングを作り上げたと言っても過言ではない。

リリーフ投手の準備についても触れておく。最近の試合は6連戦で組まれるのが普通。セットアッパー、クローザーを含めたリリーフは、6連投できる準備を秋と春季キャンプ、オープン戦などを通して身につけておくべきではないか。

例えば、春季キャンプであれば、後半からは気温の暖かい日は20球ほどでマウンドに上がれる訓練をしておけば、後々のためになる。つまり、全てにおいて大事なのは準備なのである。コントロールを良くするために、感覚をつかむまで投げ込むのも同じ。本番から逆算し、準備を重ねて得た技術は本物である。

1914年(大3)、山頭火はこんな句を詠んだ。

「真に生きるということは 真に苦しむということである。」

ちょうど、季語や「5・7・5」の定型にとらわれない自由律俳句を詠み始めたとされる時期だ。何かを成すには必ず苦しみがある。「制限」など気にせず、苦しみを乗り越えた先に成功がある。

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から昨季まで、再び巨人で投手コーチ。