2月11日に84歳で死去した野村克也氏を回顧する。第3回はヤクルト監督時代の1996年(平8)、92、93年の日本シリーズで球史に残る死闘を演じた森祗晶氏(83=日刊スポーツ評論家)が行った貴重な直撃取材を再掲載。照準、逆算、配分の「勝つための3要素」が見え隠れする。

96年2月、森祗晶氏(左)との対談で、ヤクルト野村克也監督はセ・リーグ監督のカードの中から巨人長嶋茂雄監督をターゲットとして引く
96年2月、森祗晶氏(左)との対談で、ヤクルト野村克也監督はセ・リーグ監督のカードの中から巨人長嶋茂雄監督をターゲットとして引く

日刊スポーツ評論家の森祗晶氏(59)が10日(日本時間11日)米アリゾナ州ユマのヤクルトキャンプを訪問、連覇を目指す野村克也監督(60)の胸中を直撃した。野村監督が連覇への最大のターゲットとして巨人を指名。開幕15試合に勝負をかける長嶋巨人とは対照的に、Vラインを定めず、ラスト20試合で勝負する考えを示した。

森氏 前回(93年)は日本一から翌年が4位。その時とは、気持ちの持ち方が違うみたいだが。

野村監督 正直言うと、前回はオレ自身がホッとして、ヤレヤレと思ってしまった。それが選手にも伝わってしまった。だから、今年はシメようと思って神宮参拝の日(1月28日)にかなりキツいことも言った。いいムードで練習できているのは、少しは選手の自主性が育っているということだろうな。

森氏 でも、巨人ばかり見てきた昨年とは、また違う1年になるんじゃないの。

野村監督 今度は我々がターゲットにされる番。しかし、受けて立つような気になっては失敗する。そこに連覇の難しさがある。冷静に分析すると、巨人はバランスがいいし、力もある。他の4球団とは対等もしくはそれ以上に戦えても、巨人に(26試合で)1ケタしか勝てない年は優勝を逃している。だから、今年もターゲットは巨人だ。

森氏 勝ち続けることの難しさを、ノムさんは知っているからね。ところで、僕らは非常に似た部分が多いといわれる。お互い耐えることも知ってるから…。

野村監督 ペナントは勝率争い。常に、最悪の場合を想定すれば余裕もできる。配球、キャンプ、オープン戦と、すべて逆算して考えるもの。今年の場合、石井ら3人を欠いているし、伊藤智の復帰が理想。7月ぐらいに5回まで投げられるようになってくれればと思う。

森氏 とはいえ、今年も優勝ラインは考えないで戦うはず。目先の1勝にとらわれると、痛い目に遭うからね。

野村監督 優勝ラインなんて言い切れる人はいない。計算するのは9月に入ってから。マラソンと同じで、ペース配分を考えて余裕を持つこと。決して無理をせずにな。(96年2月12日付紙面)