今の野球少年や球児たちは、動画で自ら調べ、学んでいく。野球人たちが動画に引き付けられる理由を探っていく。

    ◇   ◇

野球に関連する動画は今、無数にある。第一人者の「トクサン」こと徳田正憲さん(35)は「受け入れられるのは簡単ではなかった。ここ数年で流れが変わってきた」と振り返る。

16年、動画チャンネル「トクサンTV」を設立。「ライパチ」の名で活動する大塚卓さん(32)と、YouTubeで毎日動画を配信している。チャンネル登録者数は55万人。野球ユーチューバーのジャンルを切り開いた。

所属する草野球チーム「天晴」の様子や、道具紹介、練習方法などの技術指導の動画もアップする。プロ野球選手や野球メーカーに取材し、疑問を解消しに行くこともある。トクサンは高校時代、帝京で甲子園に2度ベンチ入り。創価大では2番セカンドとして、リーグ戦で首位打者やMVPなどを獲得した実力者だ。

プロではない人間が、表舞台で野球を語る。当初の反応は冷ややかだった。「YouTube世代でもない。ニーズがあるのかな」と悩むこともあった。

どうすれば見てもらえるか。「数字が上がらないと説得力がない」。まずは視聴者を増やすことを心がけた。ユーザーは敏感で、面白い動画は多く再生され、そうではない動画は見られない。動画に寄せられるコメントを全部チェックし、常に反応を見ながら分析。動画制作に生かした。地道な繰り返しで不動の地位を築き上げた。

もう1つの特徴として、野球を言語化していることが挙げられる。動画では、抽象的な言葉は出てこない。感覚で指導をすることが多い野球の世界。技術を的確に言語化することが求められる。「技術を、かみ砕いてアウトプットすることが大事。誰が聞いても分かるようにしないと」と力を込める。徹底した分かりやすさが、トクサンTVの人気の秘密だ。

撮影から編集まで。すべて2人でやってきた。トクサンは「執念じみたものが、どこかにあります」とうなずく。連日の編集作業は深夜3時まで及ぶことも。粘り強く、毎日動画を配信し続けた。

YouTubeの世界に野球が根付き、中には元プロ野球選手も少なくない。群雄割拠の中でも「トクサン、ライパチ」は絶大な知名度を誇る。「地道に欲張らず、野球界で長くやっていきたい。身の丈はわきまえて、おかげさまで成り立っています」。

2人のひたむきさが、人々を引きつけるコンテンツに成長させた。ただ、もう1人のキーマンも見逃せない。読売テレビでプロデューサーとして勤めていた平山勝雄さん(41)。通称「アニキ」だ。(つづく)【湯本勝大】