8月に高校野球の交流試合が行われた。中京大中京の高橋君、明石商の中森君、智弁和歌山の小林君らは素晴らしい投手だと報道で知り、ゲームを見させてもらった。ドラフトが近く個人の感想は控えるが、どこまで成長するか楽しみであることは間違いない。

獲得に至るには、スカウトの目利きが大事になる。スピードガンで何キロか、甲子園での実績はどうか…判断材料はいくつかある。最も大切なのは、進むべき大きな道を見極める目だ。即戦力か、現在がピークか、将来大きく育つか。素材を生かすには、適切な育成プランが必要となる。

150キロも出れば、高校生で打つのは難しい。ただプロ入り後、鳴かず飛ばずだった選手は多い。やはり、平均145キロ以上の球でコントロールを突き詰めていけるかが、1軍で活躍する一番の資質だと思う。そこに球のキレ、球種、駆け引き、ゲームセンスなど枝葉を植え付けていく。

高校時代は球が速かったが、プロに入って遅くなる投手が多い。なぜ、このようなことが起きるのか。素朴に思う方は、たくさんいるのではないか。

高校生投手に最初に訪れる壁がある。先輩のブルペンを見て芽生える「この人たちには勝てない」とのあきらめだ。持論だが、体は気持ちが動かす。体力、技術で負けたと思った瞬間から挫折は始まる。

学生時代は授業が終わって午後から練習だが、プロの2軍は午前9時ごろからスタートし、夕方まで練習する。他にも夜間練習、頭の勉強、雑用…要するに野球漬けになる。肉体的につらくなり、どこの世界でもある上下関係の厳しさなど、メンタルをしっかり保てないとどんどん苦しくなる。

求められるレベルも高くなる。ドラフトで指名される投手であれば、コントロール、球種、けん制にクイック、チームプレーなど、それほど気にせずに進めただろう。プロ野球では今挙げたようなことが複雑化し、より多く練習に取り入れられる。指摘も一気に細かくなり、迷いが生じやすくなる。

高卒の即戦力はめったにいない。預かる以上、投げるボールだけでなく、人間そのものまでを見てあげなくてはならない。だから目利きは難しく、仕事の醍醐味(だいごみ)でもある。

順調に進んでも、悩む時は必ずくる。放浪の俳人、種田山頭火の一句を紹介したい。

旅、旅、旅、-私を救うものは旅だ、旅の外にはない

好きで野球を始め、プロの門をたたくに至る。原点の気持ちを片隅に持ち続けていれば、苦しんだ時の道しるべになる。(次回は9月下旬掲載予定です)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで、再び巨人でコーチ。