秋晴れの神宮に大きな放物線を描いた。10月31日の東京6大学野球、法大1回戦。1-0の3回1死一、三塁で、立大・三井健右外野手(4年=大阪桐蔭)は左翼へ3ランを放った。「1つの集大成ですね」と話す通算9号は、ロッテ・ドラフト1位の鈴木から。しかも、逆方向へ。プロ志望届を出さず、社会人へ進む三井にとって「大きな自信になる」1発だった。

10月、法大戦の3回に3点本塁打を放つ立大・三井
10月、法大戦の3回に3点本塁打を放つ立大・三井

なぜ、集大成と言えるのか。外寄りの直球を逆方向へ放り込むパワフルな打撃。「どうボールを見て、どうバットを出し、どう捉えにいくか。1つ1つ、全部を突き詰めていった」という大学4年間の努力が結実した。ただ、技術以上に「考え方」が成長したという。やみくもに振っていた下級生時と異なり、バッテリーの攻め方を見極められるようになった。

3ランは、カウント2-1から4球目の直球を捉えた。それまでの3球は全て変化球を見逃した。次は直球が来る、という読みが当たった。「いい投手と対戦する時は、試合前に何を打つか決めています。向こうも辛抱強く誘い球を投げてくる。それにつられずに待てたのが、勝負の分かれ目でした」と初志貫徹した。

初回の第1打席に伏線があった。2死二塁の先制チャンスで内寄り直球に詰まらされ、二飛に倒れた。狙いは良かったが「イメージ以上にボールが来ている」と冷静に分析。次の打席は始動を早め、同時に「インコースの残像を消しました」。だから、外の変化球に手を出さずに済んだ。技術だけではない。頭を整理し、心の余裕を持ったことで生まれた1発。「集大成」にふさわしかった。

始まりは鮮烈だった。2年の春、デビュー2戦目で1発を放つと、そこから3戦連発。左のスラッガーとして名乗りを上げた。もっとも、本人は「相手は僕のことを全く分からない。たまたまです。今、見返したら、よく打てたなというバッティングです」。もっと打つには、どうすれば? 試行錯誤が続いた。3年春は打率1割6分1厘と苦しんだ。だが、もがいた時間があったから、4年秋の好成績(打率3割1分4厘、2本塁打、6打点)につながった。

社会人に進むことは、今年4月には決めていた。「1人の人間として、もっと成長してからプロを目指す」ためだ。あえて聞いた。この秋の成績なら、プロ志望届を出しておけばとは思わなかった?

「出していたら、また違う緊張感があったでしょう。そこで結果を残せたかは分かりません。後悔は一切、ないです」

野球は「成長に欠かせないもの」。次の2年間で、さらに大きくなる。そのために、志望届を出さない選択をした。【古川真弥】