3年目を迎えた巨人の高橋優貴が、開幕から5戦5勝と勝ち星を重ねている。ルーキーの頃の高橋と言えば、右打者のアウトローへのスクリュー、いわゆる抜き球を軸に打者を打ち取るのがピッチングパターンだった。それが今年は真っすぐが効果的なボールとなって、好結果へとつながっている。

4月、ヤクルト戦で力投する巨人高橋
4月、ヤクルト戦で力投する巨人高橋

より細かく記すと、インコースの真っすぐのコントロールが向上し、ストライクとボールの球の出し入れができている。入団時からボールに力はあった一方、右打者へのインコースの真っすぐは若干シュート回転し、投手としては危ない球だったが、その不安が解消されている。

1度は2軍で調整したように、開幕前は状態がいいようには見えなかった。「おや?」と思ったのは、3月14日の阪神とのオープン戦だった。ヒット数は3本と少なかったが、球数が少し多かった。この時期だから何か目的があるのだろうと思ったが、途中からコントロールに苦しんでいる姿が見え出した。

具体的に言えば、スクリューがアウトハイに抜け、完全なボール球だった。原因はいろいろあると思うが、一番信頼するボールであるウイニングショットが一番信頼できない球になっていた。なぜ、このようになったのか。全ての球に完璧を求めすぎたと想像する。理想を求め、トライするのは当たり前だが、度が過ぎればマイナスとなる。

勝負球が本調子ではなくても、開幕から白星が続く理由は相手打者のスクリューへの先入観にあるだろう。打者心理からすれば「高橋=スクリューピッチャー」の意識が強い。右打者が特にそうで、外に逃げるスクリューの残像は消えず、精度が上がった内角の真っすぐの出し入れがより効果を発揮する。

プロで活躍する投手は、一流の勝負球を持っている。「相手が来ると分かっていても、打ち取れる」のが条件で、巨人の菅野智之ならスライダーだし、ソフトバンクの千賀滉大ならフォーク。高橋のスクリューはまだその域には達していないが、独特な変化をする「特殊球」だから、打者はどうしてもマークする。

現状、四球の多さが少し気にはなるが、投げっぷりの良さと多少の荒れ球は彼の持ち味。欲を言えば四球を与えない程度の荒れ球が理想だが、ボールが荒れれば、打者は的を絞りづらくなる。高橋の場合、多少荒れながらも、勝負にいくボールは比較的間違いが少ない点が好成績の要因の1つではないか。

かつて、巨人でセットアッパーを務めた山口鉄也(現2軍投手コーチ)は入団時からの遅いチェンジアップを改良し、速いチェンジアップも習得し、長年リリーフ陣を支えた。山口のような成功例もあるが、このような取り組みはシーズンオフの話。「もっと良く」の心意気は大事だが、完璧主義は時に自分を苦しめることにもなる。(次回掲載は5月下旬の予定です)

小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)
小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。