クーベルタン男爵の言葉で有名な「オリンピックはアマチュアの祭典だ」の言葉がある。最近の競技で言えば、どこまでがプロでどこまでがアマチュアなのか線引きがわからないが、東京オリンピック(五輪)では野球はオールプロで臨む。メンバーは24人。稲葉篤紀監督も非常に悩んでいるだろうが、私なりのピッチングスタッフを想像した。

優勝するには、最少なら5試合(5連勝)、最大で8試合(5勝3敗)になる。24人の枠をどのように分類するかはわからないが、投手は11人と仮定し、先発5人、中継ぎ5人、抑え1人として、メンバーを構成する。本来の力からすれば、ソフトバンク千賀滉大は先発候補だが、現状、ゲームで投げておらず、構想から外した。

楽天早川(2021年5月9日撮影)
楽天早川(2021年5月9日撮影)

先発には巨人の菅野智之、中日の大野雄大、楽天の涌井秀章、田中将大、オリックスの宮城大弥の5人を入れる。菅野は球の力、駆け引き、コントロール、加工球(変化球)、ゲームセンス、豊富な経験、安定感など多くの要素を兼ね備えている。涌井も同様の理由で、相手の打者を見ながら投げられ、しっかりと計算が立つ。

大野雄は真っすぐの力とコントロールが良く、大崩れが少ない。勝負に対してのしつこさも持っている。田中将はメジャーでの経験を持ち、国際大会での経験も豊富。「世界の田中」で知られる。宮城は高卒2年目ながら、緩急、インサイドのストレートの制球が良く、失投が少ない。堂々としていて、落ち着いたマウンドさばきも素晴らしい。

中継ぎには阪神の西勇輝、楽天の早川隆久、日本ハムの伊藤大海を入れる。3人ともにチームでは先発を任され、五輪ではロングイニングも可能。序盤で崩れる可能性は低そうな先発陣だが、備えは必要だろう。短期決戦だけに、調子の良しあしで先発と入れ替えてもいいだろう。

ルーキーの早川、伊藤を抜てきする理由は、若い2人にビッグゲームを経験させ、今後の日本の野球をけん引する投手になってほしいとの願いを込めた。投手らしい投手で、ピッチングに自分の意思を感じる。西勇はゲームを計算しながら投げられ、意志の強さを感じる。それは責任感とも言い換えられる。

日本ハム伊藤(2021年4月28日撮影)
日本ハム伊藤(2021年4月28日撮影)

セットアッパーには、西武の平良海馬、ソフトバンクの石川柊太を入れる。平良は球の力、コントロール、勝負球を持っている。メンタルも強く、大事な終盤を任せられる。チームでは先発の石川だが、独特なフォーム、テンポの良さとパワーカーブも特殊で、初見では攻略しづらい投手と言える。リリーフに左投手がいないが、このクラスは左も右も関係ない。

抑えには、オリックスの山本由伸を推す。実は最初に決めたポジションである。何と言っても、今の日本球界で球の力がずばぬけている。シーズンから慣れた先発の方がいいのではと思われるかもしれないが、このタイプはリリーフでもより良いピッチングができる。

先発なら1勝だが、抑えなら3勝以上の勝ちに貢献できる。大事なことは、五輪はペナントレースではなく、トーナメントが絡む短期決戦だということ。負けられないし、1つ1つの勝ちが非常に大きくなる。勝っている試合は絶対に落とさないことが大事で、私なら一番いい投手を最後に持っていく。(つづく)


小谷氏の選ぶ侍ジャパン投手陣

◆先発

巨人菅野智之(31)

中日大野雄大(32)

楽天涌井秀章(34)

楽天田中将大(32)

オリックス宮城大弥(19)

◆中継ぎ

阪神西勇輝(30)

楽天早川隆久(22)

日本ハム伊藤大海(23)

◆セットアッパー

西武平良海馬(21)

ソフトバンク石川柊太(29)

◆抑え

オリックス山本由伸(22)

小谷正勝氏(19年1月撮影)
小谷正勝氏(19年1月撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。