降雨コールドになり本塁ベース付近であいさつする大阪桐蔭・池田(右)と東海大菅生・栄(左)の両主将(撮影・屋方直哉)
降雨コールドになり本塁ベース付近であいさつする大阪桐蔭・池田(右)と東海大菅生・栄(左)の両主将(撮影・屋方直哉)

日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)が、大阪桐蔭-東海大菅生(西東京)の降雨コールドゲームの中で、投手がさらされた過酷さを具体的に解説した。

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5回以降は野球ではなかった。8回表、東海大菅生・本田峻也投手(3年)の打球は、通常のグラウンドなら遊ゴロという当たりが、水たまりでボールが止まり内野安打。内野一面に水がたまり、両翼のラインは水没している。協議に集まった審判が足を滑らせ転んでいた。もはや、野球をするグラウンドではなかった。

5回裏大阪桐蔭2死一、二塁、宮下への投球後にマウンドで足をすべらせる東海大菅生・本田(撮影・岩下翔太)
5回裏大阪桐蔭2死一、二塁、宮下への投球後にマウンドで足をすべらせる東海大菅生・本田(撮影・岩下翔太)

見ていた者として、唯一言えるのはノーゲームの選択だけだった。5回裏の大阪桐蔭の攻撃中、マウンドの本田は2度、投球後に転んだ。ぬかるんで踏ん張れず、雨で指先はぬれて制球できない。もうこの時点で無理だった。

12日の帯広農-ノースアジア大明桜は、5回表の帯広農の攻撃直前に雨が激しくなり審判団はノーゲームを決断した。この時と比べても、この日のグラウンド状況は悪かったという印象だ。

5回以降は、両校の投手はただストライクを投げるしかない、過酷なマウンドになった。ロジンを使うが雨ですぐに使えなくなる。大阪桐蔭の松浦慶斗投手(3年)は、何度もロジンを交換していた。本田はぬれた左手を拭こうにも、ユニホームもぐっしょりぬれ、どうすることもできない。ベンチから伝令がタオルを持参し、本田の左手をタオルで包むが、それも1球投げれば、またずぶぬれ、という悪循環だった。

5回以降は何とかストライクを投げようと必死だったと思う。今まで通りの腕の振りでは滑ってボールになる。こうなると力を加減してストライクを取るしかない。ストライクを取るか、打たれるか。結果を出さなければ試合は進まない。

打たれる覚悟で、全力とはほど遠いボールを投げる投手の心情を思う。こうなると捕手も何もしてやれない。打ち損じを祈るだけだ。打者有利というよりも、圧倒的な投手不利で、終盤はただ試合を進めるためだけに投げる、酷な光景が続いた。

開幕日が順延され、さらに12日から3日連続の順延と悪天候に苦しむ。運営側としては、何とか小雨のうちに1試合でも成立させたい事情は理解できた。

6回表東海大菅生2死、三振を奪いほえる大阪桐蔭・松浦(撮影・屋方直哉)
6回表東海大菅生2死、三振を奪いほえる大阪桐蔭・松浦(撮影・屋方直哉)

異常な状況で7回まで投げ続けた松浦は、ストライク前提のピッチングでも、130キロ台でしっかりコースに投げていた。しかし、これが肘肩に負担をかけていなければいいと心配になった。同じことは、この日投げた投手全員に言える。肉体的にもそれだけの負担を強いることになった。

両校の監督はベンチから出て、雨の中で立っていた。泥だらけのマウンドで必死に投げる投手、水たまりの中で守備に就く野手陣を、雨に打たれながらじっと見ている両監督も、つらかったと思う。

試合を始めたことは責められない。そして、審判団も試合成立を目指してやれることはやったと感じる。つまり、この日の状況を見ていた者として、明確な対案を示すことはできないと感じた。冒頭で示したように、状況が悪化した時点ですぐにノーゲームを決断する。それ以外、どうすることもできなかった。

甲子園に来て、9回を戦い終えることなく、3点差の8回1死一、二塁で引き揚げる東海大菅生の選手。やり切れない思いだ。

8回表途中降雨コールドで敗れ、肩を落として引き揚げる東海大菅生ナイン(撮影・岩下翔太)
8回表途中降雨コールドで敗れ、肩を落として引き揚げる東海大菅生ナイン(撮影・岩下翔太)