「すげー!」「もっといける!」。選手同士のにぎやかなかけ声が、測定を盛り上げる。山村学園(埼玉)は、スポーツ用具メーカーZETT社が独自に行っている身体能力評価システム「アスリートテスト」を導入して8年目になる。新チームの発足直後の7月、対外試合禁止期間に入る12月、そして強化期間明けの3月と年に3回、測定して経過をチェックする。岡野泰崇監督(45)は「まず超高校級のフィジカルを作ることで、そこからは技術練習に多くの時間を割ける。目標のために苦しい思いをすることになるが、先を見て選手は励まし合ってやっている」という。

スイングスピードを測定する山村学園の選手
スイングスピードを測定する山村学園の選手

山村学園といえば、今夏の県大会5回戦で、6大会連続の甲子園出場を狙っていた花咲徳栄に6-5でサヨナラ勝ち。8強入りを果たしたことは記憶に新しい。その根底には、選手の徹底的な体作りがある。「アスリートテスト」は、全国の強豪校が採用。ベンチプレスやスクワットなどの最大筋力や、腹筋や30メートル走などの運動能力、スイングスピード、メディシンボール投げなど5項目22種目の能力を測定する。測定した当日に評価シートが渡され、トレーナーからレクチャーがある。基礎体力を知ることで、弱点を発見。強化することで、個人の能力アップになり、チーム強化へつながっていく。ZETTの田月裕也トレーナーは「自分の伸びしろや、これからどう改善していけばいいのか対策を立てられる。数値化することで、分かりやすくなります」と言う。

体のベースとなる総筋量で、山村学園は甲子園出場校レベルを上回っている。総筋量とはベンチプレス、アッパーバック、レッグエクステンション、レッグカール、ショルダープレス、スクワット、握力、背筋力の8種目の合計。今夏県大会を戦ったチームは、今年3月の測定で平均915・8キロだった。甲子園出場校の平均が約850キロで、差は歴然だ。岡野監督が掲げる目標は、次回12月の測定での「総筋量1人1トン超え」。選手が測定に真剣に取り組み、雰囲気が盛り上がることも納得だ。数字が出ることで、選手同士の「あいつには負けたくない」という気持ちにも火がつく。

筋量アップにつなげるため、栄養素を学んで食事量を増やすことはもちろん、各自の体質に合ったプロテインを摂取し、日々フィジカルトレーニングの時間を設ける。田月トレーナーは「埼玉県内での1位ではなく全国、甲子園で優勝するというつもりで数字を見てほしいと思う。筋量は強さの秘訣(ひけつ)の1つ。自信を持ってほしい」と選手にエールを送る。

最新機器の導入や細かな測定など、野球界を取り巻く環境は日々進化している。その波を乗りこなし、さらに変化をつくり出す学校が、今後の高校野球界で大きな存在となりそうだ。【保坂恭子】

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