優勝候補の大阪桐蔭を相手にしても、ひるむことはなかった。鳴門ナインが9年ぶりの舞台で躍動した。1-3。8回のスクイズで勝負を決められたが、土肥憲将捕手(3年)は納得の表情を見せた。「ピンチになっても、下を向くことなく、どんどん投げ込んでくれた」。左腕エース冨田遼弥投手(3年)の力投をたたえた。

9年前の夏は違った。1点差負け。サイン盗みを訴えた試合に惜敗した。準々決勝の花巻東戦だった。日下大輝捕手が「サイン盗みをしています」と訴えたのは8回2死二塁の場面だった。試合が止まった。

盗む行為があったのか、それはわからない。ただ、二塁にいた走者が右手を三塁方向に振るなど不自然な動きはあった。記者席からもそれは見えた。大会規定は、捕手のサインを見てコース、球種を教える行為を禁じる。疑わしい動きも許さない。

日下からアピールを受けた球審は、試合を止めたあと、走者に注意すると、さらにベンチ前に走って、走者に注意した旨を伝えた。赤井淳二審判副委員長が試合後「(疑わしい動作が)分かったので試合を止め、審判の判断で注意に行きました」と説明した。

1点差で迎えた9回2死満塁。打席に入ったのは日下だった。三飛になって、試合は終わった。インタビュールームに引き揚げるや大粒の涙を流した。「そういうチームには負けたくないと思って力みました。悔しいです」。

そんな無念の表情は、この日の鳴門になかった。徳島県では新型コロナウイルス感染防止のため公立校の練習試合を禁止していた。「ぶっつけ本番」といえる試合だった。実戦不足ながら、元気よくプレーした。土肥は「三浦(鉄昇主将=3年)を中心によく声をかけていた。充実した時間を過ごせたと思います」と話した。その三浦主将は「やっぱり1球で盛り上がる、楽しい場所でした」と話していた。

試合後、9年前の準々決勝で敗退した当時の主将、河野祐斗選手(26=日立製作所野球部)に電話を入れた。ちょうど練習の真っ最中で、母校の試合は見られなかったという。「1-3ですか。あの左のピッチャー(冨田)がよかったでしょう。夏が楽しみです」。自分たち以来となるセンバツをつかんだ後輩に、さらなる成長を期待した。【米谷輝昭】