安藤美穂さん(GODAIスポーツアカデミー教頭)は日大三高の教員を離れた後、帝京ロンドン学園、中国・深センの日本人補習校で現場に立ち続けた。

安藤さん イギリス現地校では、生活指導上の出来事はカウンセラーが、放課後からは地域クラブのコーチが指導します。コーチは競技ごとのコーチング資格を得たライセンス制でした。分業が確立していました。

イギリス、中国を知る安藤さんの印象では、教育現場を比べると日本の教員の高い能力、言い換えれば負担の大きさが如実に見えるという。熱心な教員、監督に巡り会えた生徒は幸せだが、そこにはばらつきがある。かつ、教員の長時間労働という課題も迫る。

安藤さんは小倉監督が野球部員と接する姿に、1つの答えに近いものを感じている。「人を育てる、そして見捨てない」。経験豊富な小倉監督と同じ「目」「接し方」を、部活動指導員にいきなり求めることはできない。だが、目指す理想があれば、励みになる。

安藤さん 日本の教育の良さを失わないよう、私たちは部活動の部分で貢献したいと考えています。欠員補充がゴールではなく、子どもの個性を多面的にとらえ、継続的に成長を見守り、技術だけでなく内面もサポートできる指導員を育てようとやってきました。

ふとした生徒の言動に、小倉監督は目を配る。今連載の前回の冒頭に書いた、腰をぶつけた生徒への声がけは、やり過ごして当然の一瞬だが、反応良く言葉が出る。日常のわずかな事象にとっさに反応する。安藤さんはそこに学び、指導員養成に生かそうと四苦八苦する。

安藤さん 教育は奪われないと、信じてきました。自分で学んだ知識も大切です。そして教育は先生に教わったものと言えます。教わった時の思い出を含め、教育はその子どもの大切な財産です。どんなに貧乏でも、どんなに差別を受けても、身につけた教育は決して奪われない。私はそういう理念でやってきました。

小倉監督は、熱く語る安藤さんを頼もしそうに見る。

「なんせ、熱いんですよね。うちの野球部も安藤先生にはよく『あんたたち、しっかりやんなさい』ってハッパかけられてました。その熱さは何も変わってませんね」【井上真】

(この項おわり)