田村藤夫氏が1回戦からセンバツをチェックし、「田村藤夫の目」(全4回)として大会を総括する。

テレビの画面越しにもかかわらず、私は思わずストップウオッチに手が伸びた。22日、常葉大菊川(静岡)・鈴木叶捕手(3年)が4回2死一塁、専大松戸(千葉)戦で二盗を刺した。投球はカーブ。緩急をつけるカーブは、真っすぐよりもおよそ0・3秒ほど捕球まで時間を要する。それだけ捕手には不利になる。

だが、まさに地をはう、糸を引く軌道で、二塁ベースやや右、高さ30センチへの正確さで楽々アウト。見事だった。手にしたストップウオッチのタイムを見た。1・78。驚異の数字だった。

テレビ観戦でセカンドスローを計測したのははじめてだった。2秒を切れば合格点と言える中、このタイムは群を抜く。数日後、甲子園に到着してネット裏の顔見知りのスカウト陣とあいさつしたが、こちらから名前を出す前に先方から「常葉大菊川の鈴木ですよね?」と話を向けられた。

プロ野球関係者ならば、あの強肩を見れば心は動く。捕手をチェックする際、最初に見るのは肩の強さだ。鈴木の強肩は申し分ない。捕球からステップを踏み、スピーディーに体重移動している。強肩プラスこの動きは、確かな素材であることを証明している。

また、8回2死一、三塁で打席に左打者のケース。投球直後に三塁へ送球して三塁走者を挟殺プレーで刺している。通常、三塁走者を刺す時は、帰塁する走者の背中に当てないように、わずかにフェアグラウンド側へ送球するのだが、その基本もしっかり出来ていた。

甲子園で生で見ようと楽しみにしていたが、初戦の2回戦で姿を消した。しかし、むしろ楽しみだ。夏にどこまで成長して、あの肩を見せてくれるのか。夏こそ、甲子園でストップウオッチを手にじっくり見たい。(日刊スポーツ評論家)

秋季県大会で安打を放ち笑顔を見せる常葉大菊川・鈴木叶(22年10月1日撮影)
秋季県大会で安打を放ち笑顔を見せる常葉大菊川・鈴木叶(22年10月1日撮影)