3年ぶりの再会だった。

2017年夏、名門・春日部共栄の4番打者として活躍した山本大貴さん(21)。

惜しくも埼玉大会準決勝で敗れ甲子園出場はならず。だが、彼にはもう一つの大きな目標があった。

「東大合格」。

大会前、東大を目指す名門校の4番打者として彼を取材した。学業成績はオール10。厳しい練習後、野球部寮に設けられた「東大ルーム」と名付けられた勉強部屋にこもり、日付が変わるまで机に向かう。それが日課だった。

現役合格はならず浪人。2度目の受験も失敗して2浪。そして今春、3度目のチャレンジ。模試では合格判定「A」が出た。しかし、桜は咲かなかった。

今春、併願して合格した早大商学部に入学した。野球部には入らず事実上の「現役引退」。コロナ禍でオンラインでの授業が続いたが、勉強に打ち込み前期試験は首席に近い成績を収めた。成績優秀者に給付される奨学金も得た。

しかし…。

「野球を辞めてしまった虚無感がずっと残ってしまっていました」

心にぽっかりと空いた穴。そんなある日、タレントのレッド吉田さん(55)から連絡が入った。2学年下の吉田さんの次男・塁さん(19)は世田谷西シニア、春日部共栄高を通じて後輩という間柄だった。

「一緒に野球の動画をつくらないか」

レッドさんの末っ子・運(めぐる)くん(9歳)をプロ野球選手(夢は巨人入団)にしようという動画(YouTube)コンテンツ。タイトルは「めぐる! 巨人への道」(https://youtu.be/1y7FnZwDhKE)

2人で少年野球の指導者や専門家と対談しながら指導方法などを取材。それを運くんに落とし込んで、その成長過程を、小学校卒業まで2年間追いかける。山本さんの役割は「文武両道を実践してきた身としてその方向からアドバイスしたり考えたりしていきます。動画編集や動画構成もやっていきます」。さらに「最先端の情報や子どもへの接し方を視聴者に届け、古い野球観を覆していこうというものです!」と奥が深い。

すでに3本の動画をアップした。

「野球を捨てたと思っていた自分がまた野球に関わることができて、本当に幸せであり、自分には野球がずっと近くにあるのだという確信を抱きました」

東大の夢破れてから半年あまり。不合格通知が届いた時、「期待に応えられず、もう二度とみんなの前に出られないと思いました」と落ち込んでいた姿はもう、ない。

東大から届いた合否通知では、あと2点足りなかったという。

わずか2点、されど2点。

野球に例えるなら彼の人生はまだ序盤3回あたりか。

「2点」を追いかけて4番バッターが打席に入った。

【デジタル編集部 福田豊】

動画の収録に臨む山本大貴さん(左)とレッド吉田さん(山本さん提供)
動画の収録に臨む山本大貴さん(左)とレッド吉田さん(山本さん提供)