全国高校野球選手権大会が100回大会を迎える今年夏までの長期連載「野球の国から 高校野球編」。「シリーズ1 追憶」「シリーズ2 監督」に続き「シリーズ3 2018春」が3月24日からスタート。夏の選手権より一足早い記念大会となる第90回選抜高校野球をメインテーマに、今年の春に迫ります。

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 春の甲子園は、文字通り選ばれしものたちの祭典だ。連日、全国の猛者たちが好ゲームを披露し、アルプススタンドは活況を呈している。大阪桐蔭の優勝で終わった今回の90回記念大会は、とりわけ激戦が多く、ファンにとっては、たまらない時間だったのではないか。一方で、最後の最後に、選ばれなかった球児たちがいる。昨年12月15日に21世紀枠の最終候補(全国で9校)に残った関東・東京地区代表の藤岡中央(群馬)は、今年1月26日の選考委員会で落選した。選抜開幕直前の3月21日。大雪注意報で、グラウンドの外野は一面雪で覆われた、藤岡中央を訪ねた。

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 恨み節などあるわけがなかった。エースの門馬亮投手(3年)は、真っすぐ記者を見つめて話す。

 「21世紀枠に選ばれるかもしれない中で、どのチームより緊張感をもって冬に練習できた。例年より数振ったし、数投げたし。練習したことは無駄にならないから(落選にも)春、頑張ろうと、気持ちの切り替えはすぐに出来ました。今は、全国レベルの打者を相手にも、手も足も出ないで負けるのではなく、しっかり勝負して勝ちきれるイメージをして練習してます」

 聖地・甲子園に立つ可能性から、野球への取り組み方がポジティブになった。主将の下田匡希外野手(3年)も、結果的に落選でも、収穫の方が断然大きい。

雪降る中、ガッツポーズをする藤岡中央の下田匡希外野手(左)と門馬亮投手(撮影・金子航)
雪降る中、ガッツポーズをする藤岡中央の下田匡希外野手(左)と門馬亮投手(撮影・金子航)

 「やはり、目標が具体化しているというか、甲子園が目の前にぶら下がっていると、みんな気合入れて練習やるんです。このままじゃレベル全然低いな、もっと上手にならなくちゃ、という欲が出てる。エラーとかしたら『これで甲子園出たら恥ずかしいぞ』など、みんなで声を掛け合っていた。そういう意味ではすごい良かったな」

 真摯(しんし)に話す2人の顔を見ていると、冬の練習風景が脳裏に浮かぶ。空っ風に負けない大きな声が、あちこちから飛び交う。的確な指摘で仲間同士高め合う姿が見えるようだ。

 落選のショックは翌日には切り替えられた。昨年のうちから小平一貴監督(33)と下田が、ナインに「何が起きても変わらないという姿勢でいれば、すべてがプラスになるぞ」と説いていた。推薦に対して「ありがたいな」と感謝の気持ちをもっていれば「何で選ばないんだ」とマイナスの感情は起こらないと繰り返したと言う。

 充実した練習の日々の中、3月16日の組み合わせ抽選の日は、選抜がナインの話題に上った。下田は、とびきりの笑顔で話した。

 「21世紀枠が、いい相手なんですよ。膳所が日本航空石川とあたる。伊万里は大阪桐蔭。由利工は日大三。これがもう、すごいな。うらやましいな。次の日の朝『ズリィな~』って。特に伊万里が大阪桐蔭と試合できるのは『いいな~』ってみんなで言ってました」

 門馬は「甲子園に出て、レベルの高い高校相手に投げてみて、打たれて、自分のレベルの低さを味わいながら、野球やってみたいな~」と思いながら、厳しい冬の練習を乗り越えた。

 甲子園での一打席が、高校生を成長させるのも事実だろう。ただ、大舞台を逃しても、球児たちは大きく伸びる。それぞれの「2018春」をへて、彼らの夏の飛躍を待ちたい。【金子航】