炎天下の鳴尾浜球場、連日の33~35度超え。猛暑日、真夏日の真っただ中。ベテランには過酷この上ないグラウンドで、黙々と汗を流し1軍から声がかかるのを心待ちしているのは、阪神安藤優也投手(39)右投げ、右打ちである。2001年のドラフトは、トヨタ自動車から自由枠で入団。昨年までは1軍で投げ続けてきたが、今季はまだひのき舞台でのマウンドは踏んでいない。実績では1軍にいてもおかしくない存在。少々疑問を抱きながら取材をしていると“なるほど”と思える話題に直面した。

 15年間の実績は、485試合のマウンド。77勝66敗76ホールド11セーブ、防御率は3.56である。その中には2008年、2009年、2010年と3年連続して開幕投手の大役を果たした主力投手。当然日本シリーズは3度経験しており、2004年にはアテネ五輪にも出場した。最近ではリリーバーとして活躍。主にセットアッパーとして2013年から58、53、50、50試合と4年連続で50試合超え登板の活躍だ。

 なのに、なぜ-。確かに今年の阪神リリーフ陣は充実している。右ピッチャーだけでも藤川がいて桑原が好調。マテオ、ドリスの両外国人も頑張っている。入り込む余地がないのかもしれないが、なぜか、昨年ファーム暮らしのまま退団していった福原(現2軍コーチ)とダブって仕方ない。もったいない気がするが、私の考えすぎなのだろうか。

 猛暑でベテランには過酷とはいえ、厄介なのは1軍からいつ及びがかかるかわからないからだ。体調、ピッチングの両面において常に調子を整えておかないとチームに迷惑をかけてしまう。

 「とにかく僕としては、いつ呼ばれてもいいよう調整しておくことが大事なことですから」は安藤だが、だからこそ暑いからといって手を抜くわけにはいかない。練習だけではない。練習だけではない。ゲームでも結果を出しておかないことには声はかからない。今シーズンのウエスタン・リーグで23試合に登板。うち、締めくくりのマウンドは一度だけ。あとはすべてがセットアッパー。22イニングを投げて防御率はなんと0.41。文句なしの内容で持ち場を極めている。

 その姿勢が若手にいい影響を与えている。ベテランの動きひとつ、ひとつが若い投手の学習材料になっている。直面した「なるほど」は若いピッチャーへの影響である。久保ピッチングコーチ「1軍昇格はタイミングの問題」と語っていたが、若い投手への影響については「僕たちもよく言われてきたことですし、いいことだと思いますので、大いに結構です」と認めている。我々も入団したころ、コーチとの会話の中でよくでてきた。「先輩たちのいいところを盗め。いいピッチャーのフォームを見ていると必ずいいところがある。盗んでやってみろ。もし、自分に合わなかったらやめたらいいんや」などなど。要するに自分で盗んで、自分で研究するところに価値があるのだ。

 新人ながらウエスタンで4勝している福永は「勉強になりますね。1度キャッチボールをさせていただきましたが、安藤さんが投げてくる球は、ほとんど胸のあたりに来ますね。グラブを前に出して、狙いを定めておいてゆっくり、無駄のないフォームで投げてきますが、うらやましいコントロールですね。フォームのことなども、時には聞いたりしますが、まだまだ到底及びません」。キャッチボールの基本は相手の胸。感心するばかりだった。

 もう1人の新人。将来の投手陣を背負うだろうと期待大の才木にも聞いてみた。「ハイっ。参考にさせていただいています。とにかく、何をするにしてもやっていることに無駄がないです。ピッチングにしても、ランニングにしても僕たちはすぐ余分なことを考えて、無駄なことをしていますが、安藤さんにはないです。当然先輩からは何かを盗んでやろうと思っていますが、安藤さんのやっていることひとつ、ひとつが勉強になります」(才木)と、こちらは吸収することに余念がない。

 「そうですか…。喜んでくれていますか…。どんな事でも聞きにくる人にはいろいろ話はしています。よく聞きにきますよ。喜んでくれているならうれしいですね」と安藤は言うものの、肝心のひのき舞台には待てど、暮らせどお呼びがない。今、チームで一番複雑な心境なのは安藤本人か-。本音は「1軍マウンド」しかない。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)