「お客さんは入場料を払って観戦に来てくれる。汚い制服(ユニホーム)で仕事をしている姿を見せるのは失礼」

 極常識的な発想から現システムに変更したと聞いた。ユニホームの洗濯も進化した話である。現在は毎試合後クリーニングに出して、きれいにしたユニホームを着てファンの前でプレーしているが、私がプロ入りした頃は3連戦が終わった日、ゲームのない前日に洗濯屋さんが回収して持ち帰っていた。だから、3連戦の2試合目とか3試合目はスライディング等で、泥だらけになったユニホームを着てスタメン出場していた選手がいた。確かに見栄えはよくないだろうが、よく考えてみると前の試合で活躍した勲章とも思えた。そういう意味では洗濯の必要はないとも言えたが、冒頭の話、至極当たり前だ。

 毎日清潔なユニホームを身に着けてプレーする選手の気分は上々だが、作業するランドリー側は大変。ユニホームは監督、コーチをはじめ、選手、バッティング投手、ブルペン捕手を合わせると50名強になる。登録選手は練習用と試合用の2着分。そして下着類の他タオル等汗を拭いて汚れた物すべてを出す。我々フロントの分まで入れるとかなりの量になる。洗濯物を洗って乾燥させるぐらいまでの作業なら、大手クリーニング店であれば大した手間はかからないだろうが、我々感心するのはできあがった洗濯物。山のように積まれた洗濯物を各個別々に振り分け、きっちりビニール袋に入れて時間までに部屋の前に置いてあること。「仕事ですから」真夜中の大至急の作業。多くを語らないところに洗濯のプロを見た。この気持ち、選手も見習ってほしいね。

 商売となれば何事も真面目に取り組めるが、仕事以外の用事となると、なぜか手を抜きたくなる。おかげさまで現在はフロントの職員も相伴にあずかっている。自分の手を煩わすことなく大いに助かっているが、我々の現役時代を振り返ってみると今と昔を表現するなら“月とスッポン”かけ離れた時代の変化と見るしかない。

 どの世界も進化して当然。分かってはいるが双方を体験してきた者の心境は複雑。現代の人は-。仕事に関わる衣類等は一切自分で洗うことはない。連日ランドリーの人が来て持ち帰ってくれる。過去は-。ユニホーム以外の汚れ物は仕事に必要なものであっても自分で洗うのが当たり前。汗でびっしょりぬれたアンダーシャツ、グラウンドの泥が白い布の目にいっぱい詰まったアンダーソックス。そしてパンツ、タオル類。合宿所へ持ち帰って洗濯機へ放り込む。洗い終わったら自分で干したものだ。困ったのは合宿所には数十人の寮生がいる。洗濯機を使用する優先順位は年上から。我々にはなかなか順番が回ってこない時もあった。今や、選手が洗濯する姿すら見たことがないが、これが現在のプロ野球界なのだ。

 個人的には、結婚してから洗濯そのものは自分の手から離れはしたが、しわ寄せは奥方に。まさか野球選手の家庭の洗濯物がこんなに多いとは思わなかったはず。初めは「私、洗濯するのは気持ちがスカッとして好きだから」と言っていたのが、いつの間にか「なんだか私、洗濯オバさんになったみたい」とあきれ顔。そうだろう。私が遠征先から持ち帰ってくる手土産といえば、ボストンバッグいっぱいの洗濯物。汗臭い下着類。うんざりしながらも洗濯機と奮闘してくれていたが、ある時アクシデントが……。そして新発見が……。

 電気洗濯機は一応存在していた。汚れた物は洗ってはくれるが現在のような優れたものではなかった。全自動すらなかった頃だ。当然、乾燥させる機能など付いていない。洗ったものを絞るのは備え付いてはいるが、2本のロールに洗い物を挟んでハンドルを手で回して絞る手動式。ある日、いつも通りに洗濯をしていたときのこと、突然“バキッ”と大きな音。何事かと思って見てみると、ハンドルを片手に奥方が立っていた。完璧に折れている。身長158センチ、体重50キロ足らずの体。いったいどこにそんな力が……。1台ならまだしも、洗濯機2台も壊してくれた。まさしく怪力の持ち主であることを実証してくれた。笑ったね。こんな時代ならではのエピソード。振り返ったら楽しいね。

 ずいぶんと古い話だ。そうだろう。指折り数えて半世紀強前の出来事である。どんな時代だったのか-。そう、戦後10年から20年たったところから。世の中“月月火水木金金”労働者は身を粉にして仕事をしまくった頃。世間は安定し始めて高度成長期に。めでたいニュースといえば、パレードの中継視聴者が1500万人とも。当時の皇太子さま(現天皇陛下)と正田美智子さん(現皇后さま)のご結婚。そして完成時は“333”メートルの世界一の高さを誇る東京タワーが。数年後には東海道新幹線が開通した。確かにこの頃電化製品をはじめ便利なものが出始めた。

 時代の相違-。今どきの人も野球以外の苦労があってもいいとは思うが、我々の時代と比べるなら、野球の練習はよくする。その分、野球に打ち込んでほしい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

セ・リーグ・CS第1S第2戦で二塁打を放ちすべり込む大山悠輔(2017年10月15日撮影)
セ・リーグ・CS第1S第2戦で二塁打を放ちすべり込む大山悠輔(2017年10月15日撮影)