得点能力欠乏症--。大病を患って暗いトンネルから抜け出せない阪神の1軍。貧打を絵に描いたような打線は、昨年のキャンベル同様、今季も期待の4番ロサリオが極度の不振でファーム落ち。全く同じ轍を踏むチームを見ていると、理想のチーム作りの待望論が頭をよぎる。若手の台頭である。チームの現状を見渡しても“即”解決するものではないが、ファームを預かる浜中治バッティングコーチにスポットをあててみた。

 今シーズンの同コーチ。バッティング面での責任はすべて自分にかかっている。今年で指導者として4年目を迎えるが、昨年、一昨年までの打撃指導には掛布前2軍監督がメインにいて、今年はロッテの2軍監督をしている今岡前打撃兼野手総合コーチがいた。「確かに昨年までは掛布さんがいましたし、今岡さんの両先輩がいまして、いろいろ勉強はさせていただきましたが気も遣いました。今年は自分でも責任を感じていますし、そういう意味でやりがいがあります。やっていて楽しいですね」そういえば浜中コーチ、バッティングケージの後ろから選手を見る目が生き生きしている。この目に期待しよう。

 重労働である。浜中コーチ「そうですね。朝7時には球場入りして、うーん。帰るのは夕方6時を過ぎていますかねえ」拘束時間はなんと11時間あまり。球場(鳴尾浜)入りしてユニホームに着替えると、その日のオーダーを組んだり監督、コーチ等フロントを含めたスタッフミーティングをしてグラウンドへ。試合前の練習ではバッティングゲージの後ろに付きっきりで選手一人一人の指導にあたる。シーズン当初いた上本、江越、伊藤隼、中谷ら主立った面々はすぐに昇格している。

 若手のレベルアップに向けて近年、頭が下がるほどよく練習をする。我々の時代にはゲーム後の練習などなかったが、現在ではあたり前。その日の試合の反省を含め、ミーティングのあと再び練習が始まる。バッティングをする選手。ノックで鍛えられる選手。ランニング、ウエートトレーニングで体力強化をする人、さまざまな練習ではあるが、これ、すべて桧舞台へのアピールだ。コーチは大変だ。このあとも室内でバッティング練習をしている選手がいれば付き合って指導する。コーチも、選手も互いに必死なのだ。

 浜中コーチを取材していて、時代の流れを痛感した。若手選手全体の課題を聞いたときのことである。「ストレートをきっちり捉えることですね」の返事。これには、つい「ストレート…。」と聞き直していた。以前から若い選手は、どちらかといえばストレートにはめっぽう強いが、変化球はまるっきり打てない選手が多かったが今や完全に逆転している。「どうしても速い球には差し込まれてしまう。始動からの タイミングですね。中谷なんかでも速い球に弱いんですが、ストレートをもっと打てるようになれば、打率は上がるだろうし、ホームランももっと出るようになるんですがねえ」は同コーチ。古い人間のレッテルを貼られたような気になったが、いい勉強になった。

 バッターのことはよくわからない。これまで、なんとなくバッティング練習を見てきたが、もうひとつ金属と木製バットの違いに、いまだこだわっている人がいたとしたら私と一緒。もう古い。「僕らが入団したころはまだ指摘されていましたが、最近では木製のバットが良くなっていますすし、高校でも木のバットを使って練習しているみたいですよ」(浜中コーチ)もう話題にもならないようだ。それより気になるのは1軍へ送り込んだ選手たちだ。「上へあがって働いてくれるとうれしいのは確かですが、陽川あたりがもっとアピールしてくれるとねえ。あとは高山です」陽川は昨年、一昨年とウエスタンで2年連続してホームラン、打点の2冠王に輝いている。大いに期待したいし、非凡なセンスの持ち主、高山の奮起も待たれる。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)