球界の話題は何と言っても白井球審の騒動でしょう。24日のオリックス-ロッテ(京セラドーム大阪)で、ロッテの完全試合男・佐々木朗希へ詰め寄り、物議を醸しました。

白井氏がコメントしていないので明確な事実は確認できていない形ですが、要するに佐々木がストライク、ボールの判定に不満を示す態度を見せたことに怒ったということのよう。

同氏に関しては18年4月の阪神-広島戦(甲子園)でメッセンジャーを「判定に暴言をはいた」という理由で退場処分にしたことが印象に残っています。

世論も同氏への批判が多いようですがパドレスのダルビッシュ有が「審判が感情を出すこともあるでしょう」という意味のことをツイートしていたのは面白いな、と感じました。

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この騒動でふと思い出したのは広島のレジェンド黒田博樹氏から聞いた話です。15年にメジャーから古巣・広島に復帰した同氏。同時に「フロンドア」「バックドア」という、耳慣れない言葉を米国から持ち帰りました。

耳慣れないというのは、こちらが知らなかっただけかもしれませんが、要するに小さく曲がる変化球で内角、外角球の出し入れをすることをメジャーではそういうと知ったのです。

流行語になったのでご存じとは思いますが念のために説明します。右打者がインコースに外れると思った球がスライダー回転してストライク・ゾーンに入る、いわゆる“インスラ”のような球を「フロントドア」。

逆に右打者の外角で外れると感じた球がツーシームなどでホームベース側に曲がってくる球を「バックドア」と呼ぶ。メジャーで実績ある黒田氏の古巣復帰とともに目新しさを感じたものです。

さて、思い出したというのは広島に復帰してから黒田氏がバッテリーを組むことの多かった捕手・石原慶幸氏との間の秘話です。黒田氏は石原氏に“ある指示”を出していたのです。

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それは「フロントドア」「バックドア」に関係することでした。黒田氏は石原氏に「球審にそれを伝えておけ」という指示を出したのです。

「黒田氏の投げる球は両サイドから変化し、ホームベースのギリギリを通る。外れていると思っても最後に入ってくる、そういう球もあるのでよく見ておいてくださいね」。そう事前に審判に伝えておけ、ということでした。

「この投手の球はそういう変化をするんですよ」という情報をもたらせておけば球審もそのつもりで見る。「外れている、ボール」と思って見ていれば最後にストライク・ゾーンに入ってきても見逃すおそれがありますが、頭にそれがあれは最後までしっかり見るということです。

それでもゾーンから外れていればボールと言われるわけで、不正でも何でもないのですが、しっかり判定してもらうための知恵として黒田-石原バッテリーが実行していたものでした。

念のために言えば、それがどう効果を発揮したのかは分かりません。それでも感心したのはそこにプロならではの技を感じたからです。一瞬の判断でジャッジを下す審判は優れた技術の持ち主。その審判を、言い方はよくないですが自分の方に巻き込んでいくスタイルを確立するのもプロでしょう。

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今回のケース、佐々木本人に問題があったとは思いません。暴言をはいたわけではないし、思わず「入ってるでしょ?」とばかりに手を振っていたようにも見えましたが、そのぐらいはたまにはあること。正直に言えば、こちらも白井氏の怒り方には違和感を感じてしまいました。

なので直接、関係はないのかもしれませんが、あえて言えば投球術と同様に「審判も含めたその場を支配する存在感」という面でも佐々木はさらに成長していけばいいなと感じました。

なにしろ2度、3度目の完全試合も期待できそうな投手。1球1球が大事です。きわどいアウト、セーフの判定もそうでしょう。はっきり書けば「きわどいが佐々木の球だからストライク」と思わせる投手になることが大事だと思うのです。もちろん審判にもよるので難しいことではありますが…。

佐々木はイチロー氏を尊敬しているという話がありますが、オリックス時代のイチロー氏が審判に対して文句を言う姿は見たことがありません。自分に自信があれば、そういうことは言わないと理解しています。

佐々木はまだ若いし、性格も素直そう。偉業こそ達成しましたが、これからの存在です。誰もマネのできない能力を持っているだけに経験を重ね、堂々としたマウンドさばきで投げ、またファンを驚かせる今後に期待しています。

【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「高原のねごと」)

◆白井球審詰め寄った場面のVTR 24日オリックス戦の2回2死一塁、安達を2球で追い込んだ佐々木朗の3球目がボールと判定された。杉本は二盗に成功。佐々木朗が二塁方向から本塁方向へ向き直った直後、白井球審が厳しい表情で詰め寄りながら言葉をかけると、松川が制止しようと間に入った。試合後、白井球審は「別に話すようなことはないんで」とノーコメント。井口監督は「球審はもっと冷静にやらないといけないと思いますし、当然判定に対しては何も我々は言ってはいけない」と話した。

公認野球規則の8・02審判員の裁定の【原注】には「ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置を離れたり(中略)宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる」と記されている。

2022年4月24日、オリックス対ロッテ 2回裏オリックス2死二塁、白井球審に声を掛けられた佐々木朗
2022年4月24日、オリックス対ロッテ 2回裏オリックス2死二塁、白井球審に声を掛けられた佐々木朗
2022年4月24日、オリックス対ロッテ 2回裏オリックス2死二塁、白井球審に声を掛けられた佐々木朗
2022年4月24日、オリックス対ロッテ 2回裏オリックス2死二塁、白井球審に声を掛けられた佐々木朗