選手起用の基本的な考え。これを問うた時の回答は常に変わらない。「いいモノはいい。年齢やキャリアは関係ない。いいから使う。それだけよ」。

1980年、阪神に入団した直後、当時の監督、ダン・ブレイザーに告げられたひと言が頭の中にこびりついている。「いくら力があっても、新人はすぐには使わない」。岡田は首を傾げた。「なんでや、と思ったわ。いくらメジャー方式といっても、オレは理解できんかった」。理不尽な通告に、キャンプ地の米国アリゾナで悶々とした日々を送った。

それが起用法の原点になっているかもしれない。自分が監督になって、思うこと、そして実践すること。「いいモノは使うやろ。新人でもベテランでも、状態がいいから起用するわけよ」。

5月14日のDeNA戦(甲子園)。攻めて攻めての猛爆で大勝。ついに単独首位になったゲームの「6番打者」について考えてみた。ここ最近、阪神の6番が注目されてきた。事実、穴になっていた。ルーキー森下から始まった6番探しは、すべて決め手を欠き、依然として解決しないままである。

14日は島田を起用した。ポイントゲッターの打順としては、いささか役回りの違う選択では…と思うが、攻守のバランスを考えた岡田の起用理由だった。外野守備が無難で、俊足である。そこに島田は2安打放った。本来なら右打者が入るべき打順ではあるが、それは関係なく、岡田は可能性を求めた。

この2安打で島田の先発出場は続くとは思うが、その先を見据え、岡田の下に2軍からの報告が入っている。実際、岡田も鳴尾浜を視察し、自分で確認している。「2軍でずぬけた成績を残しているバッターがいる」。それが2年目の前川右京である。

昨年の終わり、監督就任が決まった時から、前川の名前は岡田の口から発せられていた。「アレはいいよ。2年目とかは関係ない。とにかく(バットを)振れる能力があるし、打撃のセンスが非凡。ホンマ、エエよ、前川は…」。目を細めて語っていた。

それが今年のキャンプ直前、体調不良となり、自己管理の甘さを露呈し、岡田の構想から外れた。仮にスムーズに2月、3月を過ごしていたなら、開幕1軍は間違いなかったはず。そこから前川の名は聞こえなくなったが、ここにきて再び、1、2軍の入れ替え候補のトップに上がってきた。

ファームで4割近い打率を記録し、守りにもついている。いわば「旬」の選手である。左打者ではあるが、島田を起用しているように、いまの段階では右左は関係なし。岡田にこだわりはない。

「力があって、状態がいい時に使う。旬を見間違ったらアカンわな。それがズレることによって、タイミングを外すことになる。旬な選手は使う。それがエエんちゃうかとオレは思い続けている」。

自ら43年前に味わった経験が生きている。あの時、振り返れば、ブレイザーは岡田を起用しなくてもいい言い訳を考えていた。それがヒルトンという外国人を獲得し、彼を起用することを優先させるため、岡田には理解不能な説明を施したのだ。いわば好き嫌いを前面に押し出した采配。「やっぱり好き嫌いを勝負に持ち込んだらアカンやろ。グラウンドはあくまで力の勝負。あくまで力の比較で起用法は変わる。それが当たり前の世界」。

ちなみに1980年5月半ば、ブレイザーはシーズン途中で辞任した。数日後、帰国を前に、通訳を介して彼に呼び出された。「岡田に伝えてほしいことがある。決して悪意があっての起用法ではなかったということ。岡田にはいいスタートを切らせたかった。だから時間をかけて…と考えた。何も憎くて、こうなったわけではない。それだけは岡田に伝えてほしい」。そう言い残して、ブレイザーはアメリカに帰っていった。

さて、前川右京に話を戻す。いまのチームの勢いに乗せて、岡田の新たな戦略がさく裂するのか…。前川の昇格、カウントダウンに入ったと見ているのだが。【内匠宏幸】

 (敬称略)