8月30日、甲子園球場。午後2時30分、一塁側アルプス横の通路から、監督、岡田彰布は姿を見せた。その後ろに、さあ、何人だろうか。ざっと20人、番記者が続く。
風雲急を告げてきた。そんな風情が漂う。前日(8月29日)、DeNAに敗れ、追ってくる広島は巨人に劇的勝利。これでゲーム差は「6」になった。ザワザワと空気が揺れる。ところが岡田は番記者と楽しげに話していた。追われている…という気配は感じない。
輪が解け、岡田がグラウンドに入り、振り向いた。その時、輪の後方にいた僕と視線が合った。「エッ、どうしたん? 何しにきたん?」。番記者がこちらを向く。少し、いや随分照れながら「激励や。激励にきたんや」と声をかけると、岡田は「励まされるほどやないで」ときた。これで安心した。
そこからしばらく2人で話した。聞きたかったことがあった。8月29日のゲーム。最後、岩崎がまさかの連弾を浴びた夜。その8回裏だった。0-0で佐藤輝が二塁打を放った。すると岡田がベンチを出た。代打かと思ったが、そうではなかった。「代走熊谷」。佐藤輝に代走を告げたのだ。
思い返せば8カ月ほど前、監督に就任した際、岡田はこう言い切っていた。「大山と佐藤輝、この2人は最後までゲームに出す。途中で代えるようなことはしない」。チームを背負っていく主軸。彼らには守備固めや代走は無縁。主軸として、フルにゲームに出ること。これを強く主張した。
大山はほぼ試合に出続けている。本来なら近本もそれに加わるところだが死球があったから仕方なし。さて佐藤輝だが、岡田は自らの主張を曲げた。不調で先発メンバーから外し、2軍で調整もさせた。ただし、基本的な考えは変わらない。佐藤輝はフルイニングしてこそ。
そんな前段がありながら迎えたあの場面。「あれか? あの試合の一番の勝負どころ。迷いはないわ。あれが勝負手」。佐藤輝の走力は悪くない。だが熊谷の方が上。それ以上にベンチに「さあ勝負や!」との機運を高めるために打った手だった。
「まあチームとして、ここは何をせんとアカンかを、みんながわかってきた。オレはそれを感じる。だから強くなっている、と思う」。岡田はそこまで言い切った。
聞きたかった2つ目。岩崎が打たれ1点を追う展開になった9回裏。2死二塁で代打糸原。ここで彼は初球、センターの前にライナーでヒットを放った。さあ、どうする? 相手の守備陣形、打球の速度。すべての要素は走者の三塁ストップ。
この局面、監督ではなく三塁コーチとしての判断を聞いてみた。2003年、星野体制時、岡田は三塁コーチスボックスに立っていた。その時、星野仙一にこう告げられた。「もうお前の判断に任す。すべて考えた通りにやれ!」と。もちろん本塁に突っ込ませてアウトになったことがあった。星野は何も言わなかった。
そんな経緯があったから、あの場面、無理して突っ込ませたのでは? と聞いてみた。「そらな、プレーの中、何が起きるかわからん。外野手が力んで送球をミスするケースもある。ただ、あの打球では…、やっぱり止めるわな。何で突っ込ませなかった、とはならん。オレも止めていた」。当たり前だが、そこは冷静。岡田はいつも通り、普通だった。
確かに広島は怖い。残りの直接対戦が7試合もあるのが、なんとも不気味。でも僕の肌感覚では、あの2008年とはまったく違う。あの時、巨人を本当に恐れていたけど、今回は新井広島とのぶつかり合いを、余裕で臨む。そんなゆとりをチーム全体から感じる。
ここから先、優勝経験のない選手を率い、岡田が、そしてヘッドコーチの平田がどう旗振りしていくのか。岡田VS新井、楽しみな9月となる。【内匠宏幸】(敬称略)




