かつて指揮したチームの強さがわかった。「オリックス? そら強いやろ。なかなか続けてリーグ優勝はできんからな。それはわかっている」。日本シリーズに入る前、阪神監督の岡田彰布は素直な印象を打ち明けていた。

2010年から3年間、オリックスで監督を務めた。就任1年目、いきなりチーム改造に打って出た。先発投手として伸び悩んでいた岸田と平野佳を、それぞれ後ろに回した。「何か変えないとアカンやろ。いまの球界はブルペン勝負よ。そのために力のある2人を、重要なポジションに回す。それだけよ」。

あの時の発想。それが現実のものとなって戦っている。日本シリーズはまさにブルペン勝負の様相となっている。1、2戦が8-0、0-8のワンサイドゲームになった後、3戦目、甲子園に舞台を移してから、展開は大きく変わった。

3戦目が阪神からみれば4-5の1点差負け。最後、オリックスのクローザー平野佳にあと1歩に迫ったが届かず。そこに至るまでオリックスのセットアッパーに抑えられたのが痛かった。

4戦目はその逆になる。阪神が怒濤(どとう)の継投に出る。野手出身である岡田の得意な展開。慎重さと強気を織り交ぜた投手リレーを、岡田は好む。相手打線の巡り、代打によってのリリーフ選定…。ブルペンの厚みと相談しながら、適材適所を当てはめていく。

1イニングの間に目まぐるしくリリーバーを代え、ついには湯浅を投入した。そして9回表、当然のようにクローザー岩崎をマウンドに送った。延長を考えて…なんてことは9回表に関しては無用だった。同点の9回表。こんなケースには必ず岩崎を投入。それをすることで、ここを抑え、9回裏、必ずサヨナラ勝ちするぞ、と意思を明確に伝えているのだ。

だからこの試合での継投策は阪神には、当たり前の戦略だったが、岡田は三塁側のブルペンのことを気にしていた。本来なら出てくるはずの投手、山崎颯がいない…。ベンチを外れていたことも試合前にはわかっていた。ここがカギになる。岡田はそんなゲームプランを描いていたに違いない。

シリーズ前の会話の中で「オリックスはウチとよく似たチームや。ピッチャーがいいし、先発もいいが、ブルペンが厚い。ここもウチと同様やし」。その中で出てきたのが宇田川と山崎颯だった。若い2人のパワーピッチャーに岡田は警戒警報を発していた。

似た者同士の戦い。打線もよく似た力量で、先発陣も質量とも互角の評価。となれば勝敗の分岐点はブルペン。岡田の計算式でブルペン勝負に持ち込めば…という形が成立した。

メンバー表を見て、山崎颯が外れることがわかった時点で、必ず試合終盤に勝負できると考えたに違いない。ひとりのピッチャーがいるといないの差。宇田川が投げ終えたあと、必ずチャンスは来る。岡田は頭の中で、クルクルと考えを巡らせた。

オリックスの強さを認めている。だからこのシリーズ、岡田はほとんど強気なコメントを発していない。これは極めて珍しいことだ。常に風上に立ち、相手を挑発するような強気なところを示してきた岡田が、挑戦者になった。それはオリックスをリスペクトしているから。だからこそ、少ない穴を見つけなければ勝機は生まれないとわかっている。

さあ、第5戦。情報によれば山崎颯はベンチに入るとのことだ。ここからガチのブルペン勝負になる。終盤にまた見どころがやってくる。【内匠宏幸】(敬称略)

阪神対オリックス 8回表オリックス1死一、三塁、岡田監督は石井の交代を告げベンチへ戻る(2023年11月1日撮影)
阪神対オリックス 8回表オリックス1死一、三塁、岡田監督は石井の交代を告げベンチへ戻る(2023年11月1日撮影)