阪神タイガースのオーナー、杉山健博について、監督の岡田彰布は語っている。「野球に詳しい。ホンマ、すごいわ、あの情熱というのかな。チームが強くなってほしい…という熱を感じるもんな」と。
杉山は1958年生まれ。岡田より1歳下で、11月20日に65歳の誕生日を迎えた。監督よりオーナーの方が年下というのが珍しい。岡田が球界最高齢監督というのもあるが、2人の関係は非常に良好。そんなオーナーが今回の秋季キャンプで、若い選手に対し「もっと、もっと強くならなければ…。そのために、1軍の戦力になってもらいたい」といった趣旨の訓示を発した。
すべてを岡田に任すと本社、球団の方針を明確にして、口を出さないオーナーが、語った言葉。すでに本社、球団の次への課題を明確にした。それが「連覇」であり「常勝球団」の構築。日本一の余韻もそこそこに、浮かれた様子がないのを、うれしく思う。
岡田も同じ気持ちでいる。日本一のあとのチーム作りがいかに難しいか。それを経験しているから、余計に隙を見せないことを考えている。1985年、監督、吉田義男のもと、球団初の日本一になった。そこから、「阪神時代」の到来を期待されながら、翌年からチームは崩壊。天国から地獄の転落を味わった。
「やっぱり優勝した次の年というのは、チームを変えにくいし、動かしにくい。それによって戦力が停滞したというか、活性化が止まったもんな」。38年前を振り返り、岡田は分析している。自身も優勝の翌年の苦労を実感している。2003年、星野仙一体制下でリーグ優勝した次のシーズン。岡田は星野の後を受け継いだ。その時、すでに感じていた。「特に投手陣。ベテランが多くて、ここを改善しないと、連覇は難しい」。
伊良部、藪、ムーアらからの世代交代がうまくいかず、結局4位に沈んだ。「優勝した次の年やから、なかなかチームを変えるというのが、な」と、ならではの苦悩を明かしていただけに、今回、岡田はどんな手を打つのか。それを注目して秋季キャンプのニュースを読んでいた。
オーナーの杉山と同じように岡田は名前にとらわれず、若い力のある選手を登用するつもりでいる。例えば2年目に入る左腕門別を、来春1軍キャンプ入りを明言。野手では育成契約だった野口のバッティングを観察し、即座に支配下契約に切り替えるなど、強化策を打った。
実は岡田がここまで若い選手を実地で直接指導するのは珍しいこと。バッターでは井上、前川。小野寺に小幡に加え、井坪や戸井にまで直に声をかけ、成長を促している。
投手も同様で、参加メンバーをすべてブルペン入りさせて、ストレートオンリーの投球練習を指示。岡田らしさ満載の秋にしていた。
岡田の頭の中にはノーモア1986、ノーモア2004がある。手を打ちたくても、打てなかった後悔はもうしたくない。戦力の積み上げが必須と考え、それをFA補強、トレード補強ではなく、自前の力で補い、プラスしていく方策を選んだ。
アンチ巨人だった子供の頃、巨人の強さを見てきた。「V9なんて、そらいまの時代では考えられんよな」と言いつつ、巨人V9時代の強さが理想とする。そんな常勝チーム作りの初手となったこの秋。どれだけの若手が1軍に殴り込んでくるのか。それを岡田がどう操り、どう起用していくのか。阪神に残るV翌年の低迷の軌跡…。カギはヤング・タイガーになる。【内匠宏幸】(敬称略)