日本ハム、ロッテ、ダイエーで21年間の選手生活を送り、その後はソフトバンク、阪神、中日で2軍バッテリーコーチなどを21年間(うち1年間は編成担当)務めた日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)が、1日の日本ハム-ヤクルト戦(鎌ケ谷)を取材した。今季イースタン・リーグ最終戦。先発したヤクルトのドラフト1位奥川恭伸投手(19)の実力を客観的に解説した。

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5回を56球でノーヒットに抑えた。1四球、3三振。イニングごとの球数は初回から11球、10球、14球、13球、8球。狙っているのか、ほぼ10球前後で終えている。2軍の打者相手とはいえ、見事なピッチングだった。打者16人に対して、ボールから入ったのは3人。それ以外はすべてストライクから。いつでもストライクが取れる、そういうピッチングだった。

特筆すべきは逆球が1球もなかったことだ。ストレートが捕手が構えたところより甘く入ったケース、スライダーが要求したコースより甘かったケースはのぞくが、捕手が要求したコースと反対に来るボールが1球もないというのは、正直驚きだった。

私は春先に宮崎・西都でのキャンプで、奥川のブルペン投球を見ている。その後、戸田球場でのブルペンも真後ろから見させてもらった。今日はスタンドから見たので、距離感の違いから断言はできないが、奥川の力感には変化を感じた。春先の方が力を込めていたと私の目には映った。今日は春先の力感はなく、それでも最速149キロ。常時146~8キロをマークしていた。

あの力感のなさで、あれだけのスピードを出す投手は、1軍でも多くはない。試合開始前の投球練習で5球を投げたが、高めのボールばかりだった。初回、やはりボールが高めに抜けてきていたのだが、2回になると低めにボールが集まりだし、見事に修正してきた。そこからは、インコースでも、アウトコースでも、ストレートはカウント球として自在に制球していた。

気になる点を挙げるなら、スライダー、フォークの精度がストレートに比べて落ちることだ。スライダーの制球はいまひとつで、フォークは高めに抜けるボールが何球かあり、そのうち打たれたのはいずれも外野への飛球になった。これが1軍ならば長打になってもおかしくない。1球の怖さに直結するボールだった。

スタンドから見ていたので、明確には分からなかったがスライダー、フォーク、そしてツーシームを投げていたと思うが、この変化球の精度が上がれば、1軍でも十分に投げられる。普通に先発として1軍ローテーション入りする力はある。それだけのポテンシャルを、この日のマウンドでは見せていた。

意図して力感を出さずに149キロまで出しているのか、そこは本人に聞かないと分からないが、このフォームと球威のギャップは1軍打者もてこずるだろう。ただし、1軍の主力打者ならば2巡目、3巡目になるとタイミングを合わせてくるから、ストレートだけでは抑えられない。だからこそ、変化球の精度が求められる。スライダー、フォークで狙い球を絞らせなければ、キレのあるストレートを勝負球に、どんどん攻めるピッチングができるのではないか。

私は今季中に奥川が1軍のマウンドに立つのではないかと感じた。それは2度、奥川が打席に入ったからだ。イースタン・リーグはDH制だが、セ・リーグのチームは状況に応じてDH制を使わず、投手が打席に立てる。昨年まで中日のバッテリーコーチを務めていたが、ウエスタン・リーグの広島戦では広島の投手がよく打席に入っていた。投手が打席に入るのは、1軍での登板に備え、投手に打席を経験させる目的がある。

この日、奥川は2回無死一塁の第1打席では犠打を決め、4回2死での第2打席では四球を選んでいる。実は6回のヤクルトの攻撃は8番打者で終わっているが、ネクストバッターズサークルには奥川が準備していた。1打席でも多く経験させようとしていたことから、今季中の1軍デビューの可能性を、私は感じながら見ていた。

守備では初回、宮田のボテボテのゴロが投手と捕手の間、一塁線付近に転がると、判断よく打球に追いつき、振り向きざまに送球してアウトにしている。こうしたケースでは悪送球することが多々あるが、捕球に入る身のこなし、振り向きざまの送球の正確さなど、体の動きにセンスを感じた。

春先から注目しつつ、奥川の試合でのピッチングを見たのは、この日が最初だった。イースタン・リーグは最終戦だったが、昨年のドラフトを代表するエース候補の潜在能力は見事と言えた。私はこの後、みやざきフェニックス・リーグで2軍選手の様子をリポートする予定だ。日程が合えば、また奥川のピッチングをじっくり見たい。(日刊スポーツ評論家)