田村藤夫氏(62)が、中日の4年目、根尾昂(21=大阪桐蔭)の北谷居残り特打を取材した。チームは宜野座で阪神との練習試合を行っていた。

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午前中にコザの広島キャンプを訪れブルペン、シート打撃を見た。午後も広島のバッティング練習を見ようと考えていたが、他キャンプ地の情報を見ていて、根尾が北谷で居残り練習をしていると知った。どうしたものかと、急きょ予定を変えて北谷に向かった。

本来この時期、若手はどんどん試合に出て実戦でアピールする。ヤクルト-ロッテが行われる浦添では、ヤクルトは先発奥川、4番は内山。ロッテもドラフト1位松川がスタメンマスクで6番。またDeNAも3年目の森がスタメン。若手野手が軒並みスタメンに名を連ねた。ここからは1軍生き残りをかけ、必死にアピールを続けなければならない。

根尾は室内練習場で森野打撃コーチの投げる球を打ち込んでいた。居残り組はビシエドや福留、高橋周など。そのメンバーと根尾は明らかに立場が違う。森野打撃コーチにその背景を聞いて、根尾の真っ正直な性格が、ここに来ていよいよ根尾本人を苦しめているように感じた。

今の根尾はどうしても試合で結果がほしい。その気持ちは痛いほどわかる。若手全員が同じ気持ちだ。ただ、結果を求めるあまりに、今の根尾はタイミングの取り方に迷いが出ているようだ。

ドラフト1位鳴り物入りで入団したルーキーイヤー、私は2軍バッテリーコーチだった。手を抜かない根尾の野球に対する取り組み方をよく見ていた。真剣に考え、よく練習をする。礼儀正しく、まさに絵に描いたような好青年だ。この日、私にあいさつしてきた言葉はいつものように元気があったが、振り絞って明るく振る舞っているようにも感じた。

室内でのスイングを見たが、全力とは言えない振りに見えた。根尾は試合では思いっきり振る。目いっぱいのスイングを意識するあまり、ボール球にもバットが止まらない。ワンバウンドにも豪快に空振りをしていた。私は、そこまで振るのならば、練習でとことん渾身の力で振ってみてはどうかと感じる。練習で強く振り抜くことで、試合で余計な力みを抜くヒントが出てくるかもしれない。

若手選手には強く振ることが大切だと何度も説いてきた。根尾も試合で強く振れることはひとつの魅力ではあるが、強く振ることが主眼となっているようで、選球眼がおろそかになってしまう。動きだしたら止まらないというスイングでは、1軍では通用しない。

森野コーチは、21日は休養日になっており、それならばこの日の試合で結果を求めるバッティングをするより、思い切って時間をたっぷり使いバットを振ってみてはどうかと根尾に打診し、この日の居残り特打となったそうだ。

バッティングには特効薬はない。何千回も振って振って、自分のタイミングを体に教え込ませ、その手応えをもって1軍レベルの投手にそのタイミングで挑む。それも10回のうち7回失敗しても、3回ヒットを打てば良しとされるほどの難しさだ。タイミングの取り方という最大のテーマの前に、プロ4年目のキャンプも、答えが見つからずもがいている。

私が午前中に訪れた広島キャンプでは5年目の中村奨成が外野を守っていた。捕手だけでなく外野も守ることで、出場機会を広げたいという首脳陣の方針のようだ。そして、日本ハムでは5年目清宮が減量し、新庄監督の要請で、中日立浪監督からアドバイスをもらいながら、覚醒を目指して奮闘している。

甲子園のスター選手は、プロの水に慣れた今も、プロの壁に目の前を塞がれている。真面目な根尾が目指す理想のスイングと、現実のバットの振りはまだ一致しない。それでも、振るしかない。振り続ける先にゴールがある。そう信じて振れ。そう念じながら根尾の居残り特打を見ていた。(日刊スポーツ評論家)