<イースタンリーグ:日本ハム2-0ヤクルト>◇17日◇鎌ケ谷

2軍選手の現状をリポートする田村藤夫氏(62)は、昨年4勝を挙げ、今季も期待されるヤクルトの5年目・金久保優斗投手(22=東海大市原望洋)のピッチングを分析した。

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先発が金久保と知り、鎌ケ谷に足を運んで良かったなと感じた。20年9月にファームでピッチングを見ている。当時は最速146キロの球威とスライダーで可能性を感じさせた。昨年はプロ4年目にしてうれしいプロ初勝利をマーク。ヤクルト投手陣は充実しており、金久保にもそうそうチャンスは回ってこないだろうが、今年も飛躍が期待される右腕だ。

それが、初回から投球スタイルの変化に気付かされる。まっすぐの球速が明らかに落ちている。一昨年に見た時は、打者の手元でも球威が落ちず、いわゆる打者を詰まらせる球筋が特長だった。それがこの日は最速143キロ。そして球速以上に、キレが感じられなかった。

球威と球速は正比例するわけではないが、平均すると140キロちょっとのまっすぐでは物足りない。球速にも増して、投球フォームに以前の迫力がなくなっている。腕がしなるように振れていたのが、そのしなりがない。これではスピードは出ないだろうなと、納得してしまった。

ではなぜ、しなりがなくなったのか。コンディションの問題か、投球スタイルの変更が考えられる。ただ、コンディションが関係するなら、先発して7回途中まで115球を投げるとは思えない。毎回見ているわけではないので、明確な情報を出せないのは心苦しいが、同席した各球団の編成担当の話を総合すると、コンディションよりも投球スタイルを変えた可能性が高いと感じた。

これまでのスライダー、フォーク、チェンジアップに加えて、シンカーを投げるようになったと聞いた。132~133キロほどのシンカーを投げていた。フォークよりも落ち方が浅い印象だ。何より上手投げの右腕のシンカーはあまり多くはない。

この日は、右打者のやや内角寄りに投げていた。左打者の時は真ん中から外寄りに落としている。ただ、金久保は一昨年よりも球威が増して150キロ台を投げるまでになっている。150キロのまっすぐと、130キロ台のシンカーならば緩急がつくが、140キロそこそこのまっすぐとの組み合わせでは、緩急の効果は感じない。

この日のピッチングは7回途中7安打4四球、2失点だった。数字よりも、腕のしなりでキレのあるまっすぐを期待しただけに、ちょっと意外だった。編成担当に聞けば、前回の金久保のまっすぐは良かったということだった。この日はたまたま、まっすぐの走りが良くなかったのならば、あまり心配することはないだろう。

ただ気になることだけ記しておきたい。以前、私のチームメートに津野(浩、元日本ハムなど)がいた。いいまっすぐを持っていた。それがスピリットフィンガー・ファストボールを投げるようになって、まっすぐの球威が鈍った記憶がある。津野も150キロのまっすぐを持っていた。だが、その後はいい時のまっすぐが戻らず、苦しんだ。

金久保にも、まっすぐを磨いて、さらに良質のまっすぐになるよう、何よりも大切にしてもらいたい。決して、まっすぐを軽視しているという意味ではない。変化球の球種を増やし、少しでもヤクルト先発陣に食い込みたいという意欲の表れだとは思う。

それを踏まえて、すべての原点はまっすぐになることだけは忘れないでほしい。若いうちはまっすぐはどんどん良くなる可能性がある。先述したように、打者の手元で伸びる、回転数が落ちない、まっすぐと分かっていても打者を詰まらせる、そういうまっすぐに成長していく潜在力が、金久保にはある。

私がカウントした範囲では、この日の結果球はまっすぐ、スライダーが多く、カウント球にはシンカーという構成だった。そしてまっすぐは52球、スライダー38球、シンカー21球、その他4球だった。まっすぐの調子がいまひとつでこの比率になったのだろうが、もっとまっすぐの比率を上げてほしい。

キレのあるまっすぐが投げられる若手は、それを軸にどんどん攻めのピッチングをするべきだ。1軍で勝つためのシンカーへのチャレンジなのだとは理解しているが、まずは土台になるボールを、しっかり自分のものにしてもらいたい。(日刊スポーツ評論家)