<イースタンリーグ:日本ハム2-3ソフトバンク>◇2日◇鎌ケ谷

2軍戦に足を運ぶ田村藤夫氏(62、日刊スポーツ評論家)にとっては、厳しい季節がやってきた。それでも、気温35度超えデーゲームで見つけたソフトバンクの高卒2年目・笹川吉康外野手(20=横浜商)には将来性豊かな個性が光っていた。

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笹川のバッティングを見て、すぐに柳田を連想した。ソフトバンクとしても、柳田のように魅力ある外野手に育ってもらいたいとの期待があるのだろう。背番号も柳田が以前につけていた「44」を継承している。同じ左打ちで、体のサイズも194センチ、95キロと堂々たるもの。打者としてのスケールの大きさも感じられた。

この試合は1本塁打、2三振。当たればホームラン、当たらなければ三振。分かりやすいタイプだが、笹川には他の選手にない魅力がある。遠くに飛ばす力だ。プロ野球の球団が求める才能は主に、足が速い、速いボールが投げられる、遠くに飛ばすパワーがある、そして肩が強い、ことが挙げられる。

これらの能力は練習で鍛えられる部分よりも、持って生まれた才能による部分が大きい。それだけに、そうした選手を見つけると、大切に育ててもらいたいと感じる。

この日、笹川は日本ハム先発の金子と対戦し、第1打席は追い込まれてから外のチェンジアップに泳がされての二ゴロ。第2打席は追い込まれた後の4球目の139キロのストレート系を詰まりながらも振り抜き、ライトスタンドへ3号。第3打席は膝元のスライダーに空振り三振。古川侑との対戦となった第4打席は、低めボール球のフォークに空振り三振だった。

打席での構え方、タイミングの取り方、ややアッパー気味のバットのスイング軌道、フォロースルーの大きさ。どこを取っても柳田をほうふつとさせる。この試合では4打数1安打1本塁打だったが、詰まってもスタンドに運ぶパワーは魅力だ。会心の当たりならどこまで飛ばすのか。そう考えただけでも柳田のようなスケールの大きな打者に育ってもらいたいと思えるバッターだ。

第1打席は当てにいっての二ゴロだったが、あそこは振ってもよかったと感じる。二ゴロも三振も同じ凡打なのだから、自分の特性を考え、当てにいくようなスイングはせず、フルスイングでいいと思う。

まだ2年目の20歳だ。確かに厳しいプロの世界である以上、ファームといえども、ある程度の数字を残さなければならない。それを承知で言うなら、笹川のような打者は当てにいくようなまとまった打者になってしまうのはもったいない。当たればホームラン、当たらなければ三振。それくらいの気持ちで、まずはフルスイングを心掛けてほしい。

ついつい昔のことを思い出す。私が阪神の2軍コーチ時代、ソフトバンクと対戦すると、やはりどこまでも飛ばす柳田との対戦が非常に印象的だった。まさにホームランか三振か、というバッターだった。そこでミーティングでは「追い込んだら、低めの落ちるボールか、もしくは、インコース高めに速い真っすぐ」という指示を出したことがあった。

すると、柳田は追い込んだ後の落ちる変化球を見るようになってきた。こちらの攻め方を学習して対応してきた。追い込まれた後は落ちる変化球は見逃し、インハイ高めのボールに絞るようになってきた。実戦の中で対応力を養い、どんどん成長していった。それでも、フルスイングという持ち味は失わなかったことが、今の柳田を支えているのだと感じる。

笹川にも、失敗はあるだろうが、フルスイングすることを念頭に、試合では迷わず振ってもらいたい。振っていく中で、対応力が養われていく。私が見た柳田は大卒2年目だったと記憶している。今の笹川は高卒2年目。これからどんな軌跡をたどるかは本人次第だが、「44」番をつけた左の長距離打者が、目の肥えたプロ野球ファンが驚くような打球を飛ばし、近い将来、1軍への壁を突き破ってほしい。(日刊スポーツ評論家)

柳田悠岐のバットで打撃練習をする笹川吉康(2021年2月)
柳田悠岐のバットで打撃練習をする笹川吉康(2021年2月)