<イースタンリーグ:日本ハム2-1巨人>◇1日◇鎌ケ谷

2軍戦に足を運び、注目選手やプレーを解説する田村藤夫氏(62)は、巨人のドラフト6位高卒ルーキー左腕・代木大和投手(18=明徳義塾)のピッチングに目が止まった。

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もともと所用があっての観戦となったが、7回表までは見て行こうと思っていた。それが、7回裏に代木が登板するとアナウンスされたので、浮きかけていた腰を下ろしマウンドに目を向けた。

今季2度目の登板ということだった。投球練習の5球はいい感じで投げていた。腕の振りが良く、パッと見た目でも「いいボールを投げているな」という印象を受けた。昨夏の甲子園で代木のピッチングを見ている。1年ぶりに見る投球に、成長を感じるのはやはりうれしいものがある。

プレーボールがかかると、その腕の振りは若干緩くなった。緩いというよりも、腕の振りがわずかに鈍くなった、もしくは力を加減しているように見えた。恐らく、私だけでなくスタンドで見ていたファンの方も同じ感想を持ったのではないか。打席のバッターも同じだったはずだ。

悪く言えば、やや置きに行くような感じもする。つまり、それだけ投球練習のボールに生きの良さを感じたということなのだろう。左打者の五十幡と対戦し、真っすぐがいずれも外れて3-0と苦しい立ち上がりとなった。どうなるかと思っていると、見逃しストライクを奪い、3-1から外寄りの真っすぐで内野ゴロに打ち取った。

腕の振りが弱くなったのは、制球を意識してのことだろうと思う。それでカウントを悪くしたが、そこから良く持ち直した。足の速い五十幡だけに、四球で出したくないという意識も働き、なかなか厳しい場面だったが、冷静なピッチングだった。

続く左打者もボテボテの遊ゴロに仕留めると、3人目の右打者はカウント2-2から膝元へカットボールを決めて空振り三振に抑えた。最速144キロ。恐らく、投球練習の時は147~8キロは出ていたと感じる。この3~4キロ差は大きい。投球練習と同じ腕の振りで試合でも投げられるようになると、迫力も違ってくるだろう。

この日は真っすぐとカットボールのみ。他球団の編成に聞くとカーブも持ち球だった。これで右打者の外角に逃げていくチェンジアップやツーシームがあれば、幅も広がる。そして左打者の外角をスライダーで攻めれば、ピッチングも組み立てやすくなるだろう。

184センチでサイズもある。球持ちがいい。よりバッターよりにリリースポイントがあることで、打者は差し込まれている。こういうちょっとしたことが、初見の打者を苦しめる。代木からすれば立ち上がりをスムーズに抑える強みにもなる。もちろん、2巡目以降の対策も必要であり、すぐに打者には研究され、タイミングも合わされてくるだろう。

それでも、左腕で148キロが期待できるスケールは大いに有望だ。1年で見違えるようなスピードアップをしたわけではないが、確実に成長していると感じる。投手は特に高卒であれば、日ごろのトレーニングでどんどん体が強くなっていく。その体の強さがボールのキレを生む。

キレのあるボールがいかに大切なことか、前日の高校日本代表と大学日本代表との壮行試合を見て、それを確認した。高松商の浅野、大阪桐蔭の海老根、いずれも高校球界ではトップの強打者だが、大学日本代表の投手のボールに差し込まれていた。

これは当然のことで、高校生のボールと勝負してきた彼らが、いきなりレベルの違うボールと打席で向き合っても、そう簡単に対応はできない。つまり、大学生投手も高校を卒業して大学で練習を重ね、ボールの強さ、キレを身に付けてきた、ということなのだろう。

それを代木に置き換えれば、1年1年の練習と実戦で少しずつ上積みしていけるということだ。目いっぱい力を込めて腕を振り、それで制球したボールが投げられれば、代木はもっと試合で磨かれていくだろう。球種や経験など、まだまだ足りないものがあるのは当然。バッターも同じだが、全力でスイングすること、全力で腕を振って投げること、それがプロの根幹に変わりはない。

この試合で何をリポートするか考えていた中で、実は5回裏のプロ5年目・岸田行倫捕手(25=報徳学園-大阪ガス)のプレーを解説しようと決めていた。それは代木とは対照的に、苦言を呈するプレーだった。

先頭打者がヒットで出塁。次打者の時にエンドランを空振りも、岸田は二塁にワンバウンド送球して二塁はセーフ。さらにヒットを打たれ、無死二、三塁。1死二、三塁となり、右打者に対し先発の左腕横川が投げた恐らくフォークがワンバウンドして、岸田は取れずに後逸。二塁走者五十幡まで生還した、という失点経過だった。

横川の投げた変化球は右打者の足元へのワンバウンドとなり、確かに岸田にとっては捕球は厳しいボールだった。それは良く理解できる。捕るのは難しかった。それでも何とか止めてほしかった。捕手にとって、こういう場面が信頼を勝ち取るか、失うかの分かれ目になる。

この場面で捕球できずとも体に当てて前に転がせば三塁走者は動けない。そこではじめて横川は、あのボールを止めてくれた、と助けられた気持ちになり、次こそはと考えるだろう。ベンチも同じで、よく止めたと球際の強さに信頼感が増す。

しかし、そらしてしまえばまったくの逆で、何とか止めてくれよ、となる。酷な言い方になるが、こういうケースに60点や70点のプレーはない。0点か100点か。止めて生還を防げば最高の評価になり、いかに難しいボールでもそらせば0点になる。これが捕手に課された最後のとりでとしての責務と言える。

そらした時、岸田の一歩目は遅かったと感じた。ボールを見失ったのかもしれない。ただし、二塁走者五十幡の足を考えれば、何としてでも二塁走者はかえしてはいけない場面。

試合はこの2失点で負けている。試合の流れとは恐ろしいもので、この2点で負けてしまうところに、岸田には悔やんでも悔やみきれない局面になった。ノーバンで捕手を飛び越え、バックネットに届くような大暴投はのぞき、得点圏に走者を背負った時のワンバウンドへの対応は、いかに捕球が難しいボールだとしても、傷口を最小限に食い止めるギリギリのプレーが、捕手には求められる。

岸田には厳しい指摘になるが、これを解説しようと決めていた。それが、球場を離れる間際に代木のボールを見て、私の気持ちも揺らいだ。まず、代木の成長と課題から触れてみようと。そして、誰に言われるまでもなく十分に考え、反省している岸田のプレーも、しっかり解説すべきかなと思いつつ、9月に入ってもまだ猛暑の鎌ケ谷を後にした。(日刊スポーツ評論家)