<イースタンリーグ:ヤクルト9-1楽天>◇6日◇戸田

2軍戦に足を運ぶ田村藤夫氏(62)は、楽天のドラフト2位、大卒ルーキー安田悠馬捕手(22)の試合中の行動に注目した。安田は捕手として、もっと試合を見る意識を高めるべきだと感じた。

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私の専門分野は捕手だと自負している。したがって試合を見る時は、高校生でも、プロの1軍でも2軍でも、必ず捕手の動きには目がいく。それは試合に出ている捕手に限らない。控えの捕手でも、ベンチでどうしているかなと、自然と視野に入る。だから、気が付いてしまうのだろう。これから私が言及することは、確かに細かいことになる。

安田はDHでの先発出場だった。第1、2打席は外寄りの真っすぐをしっかりとらえていた。センターオーバーかなと思ったが、いずれも中飛。ヒットにはならなかったが、いい感じでスイングしていた。

6回裏、ヤクルトの攻撃が始まるタイミングで、安田はバットを手にベンチからブルペンへ移動した。帽子をかぶらず、ミットもレーガースも着けていなかった。ブルペンから味方のピッチングを時折見ている様子も、見入っている感じではなかった。7回表は3番からの攻撃。7番DHの安田は、その準備だったのかもしれない。

スイングで何か確認したいことがあったのかもしれないが、何度か素振りはしたが、その振り方からも、何かをチェックしているようには見えなかった。安田がブルペンへ移動した理由はいろいろ考えてみたが、私には「こういうことかな」と思い付くには至らなかった。

この一連の動きを見て、安田には申し訳ないが、しっかり味方のバッテリーを見ていてほしかった。

この日はDHで出場していたが、安田の本職は捕手だ。捕手は試合に出ていなくても、ベンチにいるならば常に試合を見ていなくてならない。

試合を見ることで感じることはいくらでもある。この6回裏、楽天バッテリーはヤクルト打線に投手2人で8打者に6安打を打たれ4点を失った。自分ならどういう配球をするだろうか。味方の投手はこういう状況ではこういうピッチングをするのか。相手打者はチャンスでこんなバッティングをするのか。味方の守備はどうだろう。相手ベンチはどんな采配を取るのか。挙げたらキリがない。

学ぶべきことはいくらでもある。試合でマスクをかぶっている時は必死でそこまで気づけないものが、ベンチから見ていれば見えてくる。昔の話で申し訳ないが、レギュラーをつかんで試合に出るようになってからも、私はベンチから近鉄梨田さん、ロッテ袴田さんのリードをいつも見て、何でも覚えようとした。伊東は年下だったが、西武の投手陣をリードする彼の振る舞いをいつも見ていた。

コーチ時代、控えの捕手には口頭で「試合をしっかり見るように」と伝えていた。向上心のある捕手ならばそんな必要はない。それでも、控えの捕手みんなにそうであってほしいと思うから、ミーティングの後か、練習最後の場面で必ず言ってきた。

私は6回裏のヤクルトの攻撃を見ていて、楽天の投手は真っすぐはいいボールが来ていると感じたが、カットボールや動くボールを使う頻度が高かったように見えた。もう少し真っすぐを多めに配球したらどうなっていたかな、と。この指摘は的外れかもしれない。しかし、何かを感じられるかが大切で、安田にも自分の率直な疑問やひらめきの中で、多くことを思いながら見てほしかった。

安田は左手人さし指骨折で5月上旬から戦列を離れていた。8月に復帰してからは、この試合を含めて2軍で13試合に出場している。先発は9試合、捕手で4試合、指名打者で4試合、一塁から捕手で1試合。代打で4試合。

第3打席は8回表無死二塁でカウント2-0から真ん中低めの真っすぐか、やや沈んだように見えたボールを右前に運び一、三塁と好機を広げた。他球団の編成担当もいたが、やはりバッティングへの評価は高かった。私も安田はやわらかく大きいスイングをするなと思う。有望なバッターと言える。

そして春先に指摘したように、バッティングのいい捕手が、気が付くと野手に転向したというニュースをよく目にするが、安田も同じように野手に転向してほしくない。シーズンを重ね、しっかり守れて打てる捕手として、試合に勝てる「守備の要」に成長してもらいたい。そのためにはバッティングも大切だが、捕手への飽くなき好奇心、向上心を持ち続けてほしい。

こうした指摘を受けた安田は、いい気持ちにはならないだろう。担当コーチを含めた指導者も同様と想像できる。楽天ファンの皆さんも、私の指摘に納得いかない方もいると感じる。

捕手の育成は時間がかかる。その育成に欠かせないものは、本人が捕手にどれだけやりがいを感じるか。自発的に幅広く情報を集め、それを自分のものにする。その蓄積が、ここぞの場面で自分を助けてくれる。(日刊スポーツ評論家)

オリックス対楽天 5回表楽天2死、同点本塁打を放ち生還する楽天安田悠馬(2022年3月29日撮影)
オリックス対楽天 5回表楽天2死、同点本塁打を放ち生還する楽天安田悠馬(2022年3月29日撮影)