パン屋のオーナーシェフが東京五輪予選に挑んでいる。西アフリカのブルキナファソ代表を率いる、北海道富良野市在住の出合祐太監督(35)だ。昨年6月、1通の手紙を受け取った。フランス語で書かれた同国野球連盟からの監督就任要請。「結果を出したい。10年やってきたので」。迷いはなかった。

札幌大卒業後、08年に青年海外協力隊員として首都ワガドゥグに赴任。露店で並ぶのは、隣国コートジボワール代表の英雄ドログバのユニホームなどサッカー関係ばかり。野球の認知度は皆無に近かった。途方に暮れていた出合監督の家に、近所の当時10歳の少年が訪れた。仲間を誘いグンゲン地区にチームができた。

石やゴミだらけで、牛やヤギがいる空き地で練習を続けた。日本から提供された野球用具も十分ではなく、バットはタンス職人に手作りしてもらった。2年の任期を終えて帰国後、13年に富良野市にパン屋を開業しながら定期的に選手を日本に呼んだ。指導したサンホ・ラシィナ内野手(21)の独立リーグ四国IL・高知入りの道筋をつくった。

連盟は資金不足のため、今年3月の東京五輪アフリカ西部予選の遠征費はクラウドファンディングで支援を募り、220万円の目標額をクリア。2連勝で出場を決めたアフリカ代表決定戦(5月1日開幕、南アフリカ)の費用約200万円も周囲に募り、27日には札幌ドームで募金活動を実施。28日に再び日本をたつ。

今もブルキナファソに野球場はない。「勝つことで注目を集めれば次へのチャンスが生まれる」と五輪挑戦の意義を話す。今回遠征する12人のうち、最初に出合家を訪れたカファンド・アミール主将(21)らグンゲン地区の選手は11人。「発酵するいい状態まで、いい環境をつくるのがパン屋の大事なところで、人を育てるのも一緒なんです」。夢を追う。【村上秀明】