智弁和歌山の遊撃手、西川晋太郎(3年)の前では1つもイレギュラーしなかった。試合後の右手はいつも真っ黒だ。

明徳義塾(高知)との2回戦。0-1の7回1死一、三塁で黒川史陽内野手(3年)の打球は遊撃手の手前で大きくはねた。記録は内野安打。幸運な形で同点になった。

同じ遊撃を守る西川が振り返る。「あのへんは荒れていました。第1試合ならきれいなんですけど、第3試合になるとどうしても荒れてくる。あれを見て、はねるかなと思っていたけど(自分の守備時には)はねませんでしたね」。1年夏から名門の遊撃手として甲子園を経験してきた背番号6はそう説明した。

プロ野球とは違い、1日4試合を開催する高校野球ではグラウンド整備もひんぱんではない。走路にもなる遊撃の定位置前は、黒土も柔らかくなり、バウンドを変えることも多い。

智弁和歌山の内野手は、イニング間に荒れた土を手でならす。しゃがみこんでソフトタッチで土を触る姿がある。何かのおまじないのようにも見える。中谷仁監督(40)の教えで、いつしかルーティンになった。プロを経験している同監督が「いい選手は手でならしているぞ」と言ったことがきっかけだ。

西川は「手の方が思いが伝わりますから」と、普段から自然に取り入れている。ときに審判にせかされている雰囲気を感じる時もある。時間がないときは足で済ますこともあるが「できるだけマイペースでやるようにしています。あとは投手が間をとった時をみてやったりします」

強打のイメージが強い智弁和歌山だが、高嶋仁前監督時代から、守備から固めていく野球を骨格としてきた。この日、西川の前で1つもイレギュラーがなかったことは偶然だろうが、守備職人の言動からは仕事に対する真摯(しんし)な気持ちが伝わってくる。【柏原誠】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)