甲府昭和の主将笠井大暉(はるき)投手(3年)の話を聞いた。山梨大会の取材方式は、一塁側と三塁側に分かれる。一塁側右翼ポール近くのスペース(屋外)で、希望する選手、監督の話を聞くことができる。時間は20分ほど。

笠井は淡々と話した。山梨戦で先発し、6回を10安打で13失点で7回コールドで敗れた。ボールを制球できず12四球が響いた。「コントロールがずっと課題でした。初回から四球を連発して、もうわけがわからなくなりました」。落ち着いて言葉を選びしっかり話す。実直な性格が伝わってくるようだ。

コールドで敗れてはいるが、9点リードされた5回裏は笠井にとって正念場だった。この回5点を失いさらに3連続四球で1死満塁。あと1点で5回コールドが決まるという絶体絶命の大ピンチ。「みんなが腕を振って投げろって声をかけてくれました」。次打者を三邪飛に打ち取り2死満塁。そして代打の小林大倭外野手(2年)にはフルカウントまで行きながら、最後は二ゴロに打ち取り、危機を脱した。6回表には4点差まで迫る5得点をあげ息を吹き返す場面もあった。

試合で心に残ったシーンを聞くと、9点差を追う6回無死満塁での窪田拓捕手(2年)の走者一掃の二塁打と答えた。理由を聞くと「ずっと僕の女房役で受けてくれていたからです」。取り乱すことも、もちろん投げやりな態度もまったくない。「負けて悔いが残りました」との言葉にも、「自分を支えてくれた人に報いるピッチングができなかったからです」と率直な答えだった。そして「人数不足が来年のチームにもあって心配です」と言葉を添えてくれた。

右翼ポール際で笠井の話を聞き、正面玄関に戻ろうとした。取材した場所には笠井を含め2選手だけ。壁沿いに右へ曲がろうとすると、泣き声が聞こえてきた。甲府昭和の選手が泣いているのかなと思いながら曲がると、1人の選手が座り込み、左のほおを壁にもたせかけていた。うつむき、肩が震えていた。

その姿にぎくりとした。そばを通ることがはばかられる、そっとしときたい。すでに足音に気付き、見上げていた。目が合った。「お疲れさまでした」と声をかけた。「ありがとうございます」と、あいさつをしてくれた。目は赤かった。1人の時間を邪魔して申し訳ないとすぐに去ろうとした時、背番号が見えた。「2」。捕手の窪田だった。さきほどまで笠井が女房役として感謝の気持ちを淡々と話していたその窪田だった。

彼は再び壁にしなだれ、また泣きだした。

悲しさをかみ殺しながら実直に捕手に感謝を示した3年生の主将笠井。走者一掃の二塁打を放ち、これから先もまだ高校野球で挑戦が続く2年生の窪田。試合後の表情は対照的だった。

8人の3年生が抜け、残るは2年生が3人と1年生が3人の計6人。先輩の3年生とともに1試合でも多く野球がしたかっただろう窪田の気持ちを思うと切ない。

負けた悔しさ、人数不足に苦しむチームのつらさ、いろんなものが窪田にあったと思うと、壁にもたれ人知れず泣く姿が胸に刺さった。【井上真】 (ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)