コロナ禍で遠ざかっていた光景が少し戻った気がした。

「そうそう!」「ナイスプレー!」「はい!」。グラウンドに響く声の主は、東大阪大柏原の選手、そして甲子園に春夏通算11度導いた松山商の大野康哉監督(51)だった。

コロナの影響で3年ぶりに開催された「甲子園塾」。若手指導者の育成を目的とする事業で、第1回と第2回に分けて開催された。第2回の特別講師として大野監督が受講者と東大阪大柏原の選手を指導した。

そこで大野監督がナインに向かって説いたのは「声」の重要性だった。「声を合わせることは気持ちを合わせること。ミスが出たら『切り替えろ』。良かったら『ナイスプレー』。プレーが良くても悪くても仲間に声をかける」。そう呼びかけた。

チームスポーツの野球だからこそ声を掛け合うことを必要と考える。「ボールをつなぐというのは声をつなぐということですからね。高校野球の良さとして、仲間同士の声かけ、グラウンドの活気ですよね。やっぱり声をかけることによって、ボールをつないでいくという野球の良さをグラウンドから欠かないようにとは思っています」。

コロナウイルスが猛威を振るって、高校野球も大きく影響を受けた。大会中止や延期が発生し、観客も制限された。今夏の甲子園ではブラスバンドが戻ってくるなど緩和されたとは言え、開会式では主将のみの行進。観客も大声は禁止で拍手のみとされた。コロナ禍では練習中から対策に手を焼いた。松山商では各ポジションで1人ずつにしたり、左右の間隔を5メートル程度空けたりした。それでも「声を切らないようにはしました」と声はつないだ。

甲子園塾で指導した日も、東大阪大柏原ナインは練習開始時はややおとなしかった。大野監督自ら声を張り上げながらキャッチボールをするとナインにも広がり、さらに活気があふれた。

大野監督はこう願った。「声が高校野球の一番大事なところだと思います。元気よくとか明るくとか活気があるとか。今はコロナで声出しちゃダメとか、やっぱりみんなで集まってワーワーできないじゃないですか。せめてグラウンドの中で許される範囲の中ではしっかり良い声かけて活気出してやれたらいいなあと思ってですね」。

サッカーワールドカップではスタジアムで観客が肩を組み大声を張り上げて選手を応援する映像が何度も映し出された。もちろんマスクはない。コロナと闘いながら、まもなく丸3年が経とうとする12月。コロナ前の日常が少し近づいたことを感じた。【林亮佑】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

松山商の大野康哉監督は「甲子園塾」で東大阪大柏原ナインにノックをする(撮影・林亮佑)
松山商の大野康哉監督は「甲子園塾」で東大阪大柏原ナインにノックをする(撮影・林亮佑)