野球記者になった頃、イチロー擁するオリックス黄金時代を取材した。「がんばろう神戸」の95年は2位ロッテに12ゲーム差のぶっち切り、日本ハムと競った96年も最終的には7ゲーム差をつけての優勝だった。

あるときイチローと雑談し、なぜ勝てたのかという話をした。海を渡ってからほどではないにしても当時から記者を試すように難解なことを言う男だ。どんな説明をするか? と思って聞いた答えはこうだった。

「そうですね。ウチが負けているときに相手も負けていましたからね。それが大きかったです」

真剣な表情で当たり前のことを言うので少し拍子抜けした記憶がある。しかし冷静に考えれば、まさに真理だ。自軍が負けた日に相手も負けていれば、それでいいとは言わないが、ダメージは少ない。ペナントレースには欠かせない要素ということだ。

それでいけば巨人の指揮官・原辰徳は、結構、悠々と毎日を過ごしているのではないだろうか。2桁貯金があるのは巨人だけ。2位以下のヤクルトは5割付近をウロウロしている。イチローの言葉を借りれば、これは大きい。

阪神はDeNAに競り勝った。前日1日に5発を浴びて完敗した後「これぐらいにしといたろ」と自虐的に書いたが、なぜかDeNAにはこの日のような勝ち方ができるので、ほんの少しだけ楽観的だった。

そして久しぶりな出来事があった。デーゲームで巨人が広島に負けたこの日、阪神は勝った。この「阪神=○、巨人=×」というのは実に7月12日以来。2週間以上ぶりである。

最後にゲーム差を詰めたのは同24日だ。巨人がヤクルトと引き分けたときに阪神が中日に勝った。それ以来、スカッと1ゲーム差を縮めることに成功した。

それでも、まだ5ゲーム差だ。東京ドームで開幕3連敗を喫し、3ゲーム差からのスタートなので、さらに2ゲームを広げられている計算だ。しかし、あの頃のことを思えばチームの雰囲気はまったく違う。

梅野隆太郎の遊撃野選でダメ押し点を取った8回の攻めはよかった。本塁打、適時打が出れば一番なのは当然だが、それがなくてもダメは押せるという形を見せた。いつも書くがこういう風に点が取れるチームは粘れる。4日からの巨人戦。まずは1つ勝って、名将・原に「今年の相手は阪神かい?」と思わせたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対DeNA 8回裏阪神1死一、三塁、梅野の遊ゴロで生還する江越(撮影・上田博志)
阪神対DeNA 8回裏阪神1死一、三塁、梅野の遊ゴロで生還する江越(撮影・上田博志)