ちょっと勝ったり、いい結果が出たりしたら浮かれて、大げさなことを書いたり、持ち上げたりしてしまうのが我々を含む阪神取材メディアの特徴というか、照れくさい部分であるのは重々、承知した上で少し書いてみたい。

藤浪晋太郎がクローザーを務める日がひょっとしてやってくるのではないか、ということだ。長年、その仕事を務めた藤川球児が今季限りで引退する。今季はスアレスがいるが、来季以降、その大役を担う存在として藤浪がクローズアップされるのではないか。

そんなことさえ思わせる投球だった。あれだけ160キロを連発できる投手はそうはいない。関係者の誰もが言うように藤浪が潜在的な能力を持っているのは間違いないし、それを出せばこういう結果になるという見本のような登板だった。

そこで思い出したのは昨年に久保康友と交わした会話だ。阪神、ロッテなどで活躍した右腕。昨年はメキシカン・リーグで投げた。球児と同年齢の40歳だが現在はいわゆる浪人中で引退したとは聞いていない。

クイック・モーションの速さでも知られた理論派右腕の久保にたずねたのは“藤浪再生術”だった。奈良出身の久保に関西人同士の気安さで「藤浪はどうしたらええと思う?」と聞いた。

「制球とかを『気にするな』と言ってもそれだけではどうしようもないですから。制球とはまったく違うことに集中するとか。そのことでそっちは気にならなくなるかもしれない。そんな感じですかね」。しばらく考えた末に久保はそう言った。メンタル面の話だったがなるほどと思った。

そこで現在、藤浪の置かれている状況を考える。中継ぎ登板について前回は「死ぬほど緊張した」と話し、先発投手の白星を消してしまうプレッシャーを強調していた。

この日は大阪桐蔭の先輩・岩田稔の久々の白星がかかっていた。もっとも気を使うところはそこだったはず。どう投げようとか、コントロールがどうだとか、何キロ出ているとか、そんなことを考えている余裕はなかったのかもしれない。

そんな意識が投球に好影響を与えているとすれば…。そう思えば試合状況にもっとも気を使うのは抑え投手、クローザーだろう。「ここはとらなあかんで」。そう思って必死で腕を振り、剛速球を投げる藤浪を想像すると楽しい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)